私たちが音声を介したコミュニケーションを図る際、どのように音声を生成しているか。その機構をわかりやすく教えることに主眼を置き、声道の物理模型やリード式音源を中心に科学教育や音響科学への応用を進めた。国内外の協力者に評価を仰ぎながら、インドの科学館や日本の国立民族学博物館(特別展)、ドイツのDresden工科大学、チェコのCharles大学などでは展示の一部となり、多くの来館者の音声生成機構への理解を深めた。プロジェクトの前半ではCOVID-19による様々な制限の下、世界中でオンライン教材のニーズが高まるのに呼応して音響音声学デモンストレーションAcoustic-Phonetics Demonstrationsのwebsiteのコンテンツをさらに充実させた。特に、音響学の基礎に関する教育プログラムはアメリカ音響学会の原著論文として出版され、さらには中高生向け動画制作にまで至った。また、エアロゾルや飛沫の飛散について、レーザ光を用いて測定する際に声道模型を用いると人的リスクを回避して安全に、かつ、より高度な実験が可能となる。声帯が振動する際に飛沫が生まれやすくなる様子の可視化にも貢献した。本プロジェクトでは特にICTとの融合を加速し、複数の方法で声道模型をPCによって制御させるシステムを実現した。中でもロボットアームを用いた例では、ブラジルとオンラインworkshopを開催。上智大学の研究室内にある声道模型を現地から送信された音声コマンドで遠隔操作し、模型に母音を出力させる実演も成功させた。PC制御により音声のダイナミックスを再現することが可能となり、声道模型で母音と子音を含むフレーズを生成したり、メロディーを付加して歌唱させたりと発展を遂げている。この「声道模型を喋らせる」機構にカムを応用させることにも成功し、アルゴリズムと音声合成を結びつけて学ぶ教育への架け橋となった。
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