研究課題/領域番号 |
21K02891
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
右近 修治 東京都市大学, 理工学部, 教授 (60735629)
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研究分担者 |
新田 英雄 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50198529)
山本 明利 北里大学, 理学部, 教授 (70751105)
中村 正人 東京都市大学, 理工学部, 講師 (90247130)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | multiple representations / 多様表現 / 物理教育研究(PER) / DBER / 物理教科書 / 概念的理解 / 学生の仕事とエネルギー理解 / 数式表現 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,理工系大学初年度生を対象とした物理教育研究(PER)による調査結果に基づき,多様表現(multiple representations)を活用した教材群を開発することである。多様表現を活用した,いかなる教材群が問題解法スキルを向上させ,素朴概念の変容を引き起こし,高い学習効果をもたらすのか。現在までに蓄積されている多様表現に関する認知学習理論と物理学固有の題材がDBER(discipline-based education research)として結合することにより,具体的実践的に答えることができる可能性がある。 2022年度は多様表現を構成する要素の一つである数式表現に焦点を当てた。学生が物理学で出会う数式は計算手段としてのみあるのではなく,物理世界を数理モデル化した表現であり,物理概念そのものの表現でもある。一方,物理学における数式は特殊文字を用いて高度に記号化されており,解読するためには一定のスキルを必要とする。A高校73名,東京都市大学必修物理学選択者78名対象に数式表現理解に関する調査を実施し,教員にとって自明と思われる数式に対してさえ,その意味が学生に適切に伝わっていない可能性があることが明らかになっている。 また2021年度に引き続き,物理概念理解と多様表現との関りを,力学教科書の「運動エネルギーと仕事」「エネルギー保存の法則」を具体的な題材として検討を進めている。22年度にも東京都市大学理工学部初年度生199名対象として「仕事とエネルギー概念調査」を実施し,21年度と合わせて371名からデータを得ることができた。また調査後の聞き取り調査実施者は総計15名となった。調査結果より,学生が持つ仕事やエネルギーに関する誤った理解を改善するために,文章表現や図解表現,数式表現等の多様表現が大きな役割を果たす可能性があることが明らかになってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「大学の物理教育研究会(UPEC)」より依頼を受け,22年7月の第15回会合において「物理教育における多様表現の活用」の講演を行った。現在進行中の課題である入門物理教科書の開発,多様表現に関する質疑応答及び意見交換を行い,問題点をより鮮明にすることができた。 また,8月に開催された物理教育研究会(APEJ)夏期大会,9月の日本物理学会秋季大会において「物理教育における数式表現」の原著講演をし,先行研究を整理し,今後実施する調査課題を明確にした。講演内容は「物理教育通信No.190(APEJ)」誌に発表され,その研究指針に基づいて数式表現理解に関する調査が22年12月,23年1月に実施された。 8月の物理教育学会,第38回物理教育研究大会において中間報告「学生が持つ『エネルギーと仕事』概念」の原著講演をした。その指針に基づき,21年度に続いて「仕事とエネルギー概念調査」を実施,23年日本物理学会2023年春季大会において「学生のエネルギー概念理解(3)」として報告した。 こうした研究調査結果に基づいて,多様表現を活用した教材および物理教科書「SUPER(Student-centered Understanding based on Physics Education Research)入門力学」を開発中であるが,22年度は調査研究により多くの研究資源を費やしたため,教材開発および教科書執筆がやや遅れ気味となっている。
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今後の研究の推進方策 |
学生が抱く概念的困難に関する調査結果に基づき,その克服を支援するための教材開発並びに物理教科書開発を続けていく。特に力学分野における「仕事とエネルギー」単元においては,すでに実施したエネルギー概念調査の解析結果に基づき,その克服の手立てを教材として具体化する。また21年度の課題であった反駁テキスト,22年度の数式表現,そして図解表現等の多様表現を活用した教材,教科書を具体的に提示することが最終年度の課題となっている。 多様表現を活用したデジタル教材群,デジタル教科書開発を目指し,実験動画,教材動画作成を続けていく。一昨年度に続き昨年度においても,コロナ禍の元では研究分担者,研究協力者が集合することが困難であり,協議しながらの動画教材作成に支障をきたしていた。しかしながら本年度においては,こうした事態が改善されると期待できる。 本研究グループは昨年5月29日の第1回より今年3月23日の第13回まで,オンラインミーティング(研究代表者1名,研究分担者3名,研究協力者3名から成る)を実施しながら研究を進めてきた。このような研究体制・方法は本年度も引き継がれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
22年度に開催された物理学会,物理教育学会等の学会や研究会は,コロナ禍の影響が和らぎ,オンライン方式と対面式が選べるようになり,出張する機会も増えた。しかしながら,本課題研究協力者3名は予想した以上にオンライン参加を選ぶ傾向が強く,対面参加として計上していた旅費を下回ってしまった。 また,実験動画作成のために集合協議することが,やはりコロナ禍の影響により難しい状況が続き,これと連動してデジタル教材の充実が不十分な結果となってしまった。さらにこうした動画教材とリンクした教材開発,デジタル教科書開発も遅れがちとなり,そこで必要としていた経費を消化することができなかった。 令和5年度所要額として110万円が申請済である。その内訳は物品費52万円,旅費45万円,人件費3万円,その他10万円となっている。次年度使用額として発生した29万円は物品費及びその他として組み込まれ,デジタル教材コンテンツの一つである実験動画・静止画の充実のための実験機材購入,作成した教材,教科書の印刷費に充てられる。
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