研究課題/領域番号 |
21K02895
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
辻 琢人 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (70321502)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 半導体デバイスものづくり教育 / バイポーラトランジスタ / 集積回路 |
研究実績の概要 |
半導体デバイスは,現在の高度情報化社会を支える基盤技術の一つであるが,その作製には一般に高価な装置と多くの工程が必要である.そのため,大学や高専などの教育・研究機関で作製実験を実施することは容易ではなく,講義による知識の習得だけに留まっていることが多いと思われる. 本研究代表者は,半導体工学を理論と実践の両面から理解することに役立てられるように,これまで必要最低限かつ簡易な工程で,シリコン太陽電池,MOS電界効果トランジスタ,及び発光ダイオードを作製する教材を開発し工学教育活動に積極的に活用してきた. 本研究は,これまでの研究で確立してきた不純物拡散層の形成技術を基に,現代社会に欠かすことのできない半導体デバイスの中で基本となる代表的なデバイスの一つであるバイポーラトランジスタの作製技術とその動作原理を理論と実践の両面から効果的に習得することに繋がるバイポーラトランジスタ作製教材を開発している. バイポーラトランジスタには,npn型とpnp型があるが,本研究ではトランジスタ内を電子が移動するnpn型バイポーラトランジスタ(npn BPT)を作製する教材の開発を試みている.npn BPTは電子の多い2つのn型と正の電荷を帯びた正孔の多いp型で構成され,n型からp型へ電子が注入され,それがもう一方のn型に到達することで動作する.npn BPTを作製するためには,n型内に形成したp型拡散層内にもう一つのn型拡散層を形成する必要があるため,まずn型内にp型拡散層を形成し,その中にもう一方のn型拡散層の形成を試みた.その結果,p型拡散層内にn型拡散層を形成することができた.また,p型拡散層内に形成するn型拡散層は,p型拡散層内に選択的に形成する必要があるため,その工程の確立も試み,p型拡散層内に選択的にn型拡散層が形成できるようになり,npn BPTを作製する基本的な技術が確立できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
npnバイポーラトランジスタの作製にはnpn構造を形成する必要があるため,まず,その構造をSi基板平面内に作製するためにレイアウト設計を行った.そして,二次元パターンを形成するために使用するフォトリソグラフィー工程で必要となるフォトマスクを作製し,任意の形状・サイズのnpn BPTが作製できるようになった. 所望の形状・サイズのnpn BPTが作製できるようになったので,フォトリソグラフィー工程,不純物拡散層形成工程,及び酸化膜形成工程を使ってnpn構造の形成を試みた.npn構造を形成するには,n型Si基板内に形成したp型拡散層内にもう一つのn型拡散層を形成する必要があるため,まずn型Si基板内にp型拡散層を形成し,その中にもう一方のn型拡散層の形成を試みた.その結果,p型拡散層内にn型拡散層を形成できたことがp/n判定器で確認できた. また,p型拡散層内に形成するn型拡散層は,p型拡散層内に選択的に形成する必要があるため,その工程の確立も試みた.不純物拡散を妨げるマスクとして液状のスピンオングラス剤を基板に焼結することで得られる酸化膜(SOG)と加熱したSi基板に酸素ガスを供給して形成されるドライ酸化膜の2つを候補とした.ドライ酸化膜と比較してSOGは容易に薄膜が得られるが,熱処理後,その表面には大きな凹凸が存在し,またクラックの形成も確認され,マスク材として適当ではないことがわかった.一方,ドライ酸化膜の表面は平坦でクラックも形成されず,ドライ酸化膜上に不純物拡散材を塗布・熱処理をしてもドライ酸化膜の下の領域に不純物が拡散されないことが確認できた.その結果,ドライ酸化膜をマスク材とすることでp型拡散層内に選択的にn型拡散層が形成できるようになり,npn BPTを作製する基本的な技術が確立できた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの取り組みによって,npnバイポーラトランジスタ(npn BPT)の作製教材の開発で必要となる基本的な技術・工程が確立できたが,形成したn型及びp型不純物拡散層の電気的特性を把握する必要があることから,まず形成した拡散層の深さ及び電気的特性を評価し最適な不純物拡散層の形成条件を見出す. その後,これらの技術・工程を基にしてnpn BPTの作製を試みる.フォトリソグラフィーでSi基板表面に形成したシリコン・ウェット酸化膜を除去,p型不純物拡散剤のホウケイ酸ガラス(BSG)を使ってベース領域となるp型拡散層を形成する.BSG膜を除去後,形成したp型拡散層内にもう一つのn型拡散層(エミッタ)を選択的に形成するため,マスク材となるドライ酸化膜を形成,エミッタ領域を確保するためドライ酸化膜の一部を除去して,リンケイ酸ガラス(PSG)を使ってn型拡散層を選択的に形成しエミッタを形成する. このようにnpn構造を形成した後,エミッタ,ベース,コレクタ領域に電極を形成するため,再度ドライ酸化膜を形成,その一部を除去して電極形成窓を設けた後,アルミニウム薄膜を形成し,フォトリソグラフィーで任意の形状にアルミニウム薄膜を整形し各電極を形成する. そして,このようにして作製したnpn BPTの電気的特性を評価し,npn BPT作製教材の開発を進めていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで,npnバイポーラトランジスタの作製教材の開発で必要となる基本的な技術・工程の確立に注力してきた.その結果,これまでの取り組みによって,npnバイポーラトランジスタの作製教材の開発で必要となる基本的な技術・工程は確立できる見通しを得たが,npnバイポーラトランジスタの作製教材を開発するには,より精密に所望のn型及びp型不純物拡散層が得られる条件を把握する必要がある.それを実現するには,熱処理温度,熱処理時間などの様々な形成条件で不純物拡散層の形成を試み,多様な評価をする必要があることから,本研究を支障なく遂行するために必要となる実験装置や様々な材料を用意して,試料を作製及び評価するために使用する予定である.
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