研究課題/領域番号 |
21K02903
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
伊藤 克治 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (10284449)
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研究分担者 |
大内 毅 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (40346838)
石橋 直 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (80802842)
後藤 顕一 東洋大学, 食環境科学部, 教授 (50549368)
野内 頼一 国立教育政策研究所, 教育課程研究センター研究開発部, 教育課程調査官 (00741696)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | STEAM / 3Dプリンター / 科学概念 / 粒子領域 / 地球領域 / 見方・考え方 / 三次元教材 |
研究実績の概要 |
本年度は当初計画に従って,まず3Dモデル化にふさわしい物質の探索と基礎研究を行った。具体的には,通常の分子模型では作成が困難である触媒反応に焦点化して,遷移状態に関わる分子を3Dプリンターで製作し,手に取って直感的に理解できる教材の開発を目指した。その結果,これまでの研究で手掛けた有機分子触媒の1つである,ビナフチル骨格をもつホスフィノフェノール分子に着目した。この分子はかなり大きなサイズであるため,市販の分子模型を使って組み立てるのは容易ではない。また,この分子を遷移状態の理解のために用いると,他の分子との相互作用も考えなければならず,比較的大きなクラスターを扱うことになる。そこで,このホスフィノフェノール分子の空間充填モデルをフルカラー3Dプリンターで製作することにした。 まず,HULINKS社の結晶・分子構造のモデリングソフトCrystal Makerを使って,三次元情報をもつSTLファイルを作成した。分子のエネルギー的に安定な構造をモンテカルロアルゴリズムによって最適化し,その後,STLファイルとして出力した。得られたSTLファイルをMicrosoft社が提供している3D Builderに読み込み,色情報を追加したPLY形式のファイルを作成した。これを本研究で導入した3Dプリンターを使用して出力すると,目的の空間充填型のカラー3Dモデルを製作することができた。 一方,学校教育における電気エネルギーの取扱いとSTEAM教育との関連について調査した。また,現実空間の中で山・平野などの地形変化にあわせてリアルタイムで三次元配置を映し出す俯瞰型プロジェクションマッピング教材のプロトタイプを開発した。さらに,取り込んだ深度センサデータを物理エンジンに取り込み仮想空間上に反映できるようにし,理科教育(地球領域)に活用可能な災害シミュレーション教材の基盤を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績の概要欄に記載した通り,当初計画に沿って教材開発を行うことができた。 粒子領域の三次元教材としては,高等教育における有機分子の触媒作用を理解するための教材として,フルカラー3Dプリンターでホスフィノフェノールの空間充填モデルを製作することができた。さらに,地球領域の三次元教材として,現実空間の中で山・平野などの地形変化にあわせてリアルタイムで三次元配置を映し出す俯瞰型プロジェクションマッピング教材のプロトタイプを開発することができた。さらに,災害シミュレーション教材の基盤の構築までできている。 以上のことから,本研究は「おおむね順調に進行している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,任意の分子について,カラー3Dデータの作成からフルカラー分子模型の製作までの一連の方法を確立できたので,分子模型製作については,以下の2つの方向で研究を行う。(1)有機化学系の授業において,有機分子の三次元構造を理解するための教材として用いた実践を行い,アンケート結果の分析からその有効性について検証する。この際,3Dプリンターで作成した単一色の分子模型とフルカラーの分子模型の両方を使って実践を行い,フルカラー分子模型の有効性について検証する。(2)3Dプリンターで製作する分子模型は“1つの塊”であり,可動性がないため,分子内で比較的回転しやすい結合軸に沿った回転が可能となるようなモデルを製作する。この中で,製作における加工条件,加工時間およびコストと加工精度との関係を調べ,最適な加工条件を明らかにする。 これと並行して,高等学校化学の有機化学分野で扱う有機合成反応について,安全かつ簡便な新たな合成方法の検討も,基礎研究として引き続き取り組む。このような反応を開発することで,分子模型を使った反応の理解と合わせて実践できるような授業構築について検討する。 地球領域における教材開発は,前年度に開発した俯瞰型プロジェクションマッピング教材やリアルタイム三次元配置教材のプロトタイプについて,学校教育現場へ実装化するための改良を行う。また,並行して現在検討中の教育実践プログラムに適合させていく。 なお,本研究は概ね順調に進行していることから,研究計画の変更は予定しておらず,遂行上の課題もない。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は,本研究で新規に導入した設備を使って,実際にフルカラー分子模型を製作する条件検討に重点化したため,当初予定よりも教材開発用の経費(ガラス器具や薬品等の実験消耗品代)が少なく抑えられており,本年度に持ち越している。さらに,コロナ禍のために対面での打ち合わせや成果発表のための旅費がほとんど使用されなかった。本年度は三次元教材の開発につながる様々な検討や実践を行う予定であり,当初予定の研究費と繰り越した研究費を合わせて使用する計画である。これに加えて,成果発表のための出張旅費を計上している。
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