研究課題/領域番号 |
21K02935
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
上野 哲 小山工業高等専門学校, 一般科, 教授 (90580845)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アクティブラーニング / 協同作業 / 討議 / プレゼンテーション |
研究実績の概要 |
当初の計画では、2021年度は全国の工業高校で実施されている「技術者倫理」教育関連授業の実態を面接調査と質問紙調査によって把握する予定であった。しかし長引くコロナ禍の影響により、部外者への学校訪問が制限されたうえ、郵送による質問紙調査の実施についても複数の不特定多数の人の手が介し感染の危険性を払拭できないため、実施を断念した。 そのため、調査対象を個人的に面識のある教員が技術者倫理教育関連科目を担当している工業高等専門学校2校、大学(工学部)1校、大学院(修士課程)1校に変更し、オンラインによる面接調査と提供された授業資料の分析によって、実態の把握を試みた。 結果として、コロナ禍による対面型授業実施制限の影響により、倫理的課題について、他者との深い討議や議論を通して自己の見解を客観視し、多面的に洗練し、他者の納得を得やすい方法で伝達するトレーニングの実施が難しくなっている現状が明らかになった。 このようなアクティブラーニングの実施が難しい状況を受けて、技術者倫理教育は「人としてすべきこと/すべきでないこと」「技術者としてすべきこと/すべきでないこと」を講義によって知識として学生に伝達する一昔前の方式に、やむを得ず回帰している傾向が見られる。また、協同作業についても、充分でなくとも学生同士での討議や討論を試みさせる努力がなされている一方で、チームで倫理的課題の解決策を多面的に検討し、論理的にまとめ、他者にわかりやすくするために洗練し、人前で発表するという機会が確保されていない傾向が強いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた、全国の工業高校で実施されている「技術者倫理」教育関連授業の実態を直接把握することは、コロナ禍の影響により叶わなかった。しかし当初の計画に代わる代替調査により、中等教育・高等教育を問わず、学校で実施されている技術者倫理教育関連科目は、教育理念こそ変わっていないが、教育手法に制限がかかっていることが明らかになった。 2021年度は技術者倫理教育の現状把握を目的としていたため、調査対象は変更されたが、教育現場における技術者倫理教育関連科目の実態はある程度把握できたため、本研究は概ね順調に推進しているといえる。 本研究でここまで明らかになっているのは、以下の3点である。 1) これまでの技術者倫理教育が掲げていた理念や目的と同様、現状も「人としてすべきこと/すべきでないこと」「技術者としてすべきこと/すべきでないこと」を生徒・学生に理解させることを据えている点は変わらない。2)一方でコロナ禍による感染防止対策のため、会話を基にした他者との会話や交流の機会の設定に制限がかかり、アクティブラーニング型の教育手法の長所を活かせていない。3)そのため、技術者倫理教育の教育手法が「学生―教員」「学生―学生」の双方向のコミュニケーションベースの協同模索型ではなく、一昔前の「教員→学生」の一方通行の知識伝授型に回帰しつつある。学生が人前で協同模索作業の成果を、論理的に説得力をもって伝達するトレーニングを行う機会も激減している。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の研究実施計画は、調査対象こそ変更したものの、日本における高校生年代及び大学生(低学年生)年代の生徒・学生を対象に実施されている技術者倫理教育関連科目の実態はある程度把握できたため、2022年度は基本的には当初の計画通りに研究を進めていく。 ただ、コロナ禍の影響は2022年度も少なからず残ることが予想されるため、今年度は前年度の大学院(修士課程)での専門職倫理教育の調査から思いがけずしてその有効性が明らかになった「ピアレビュー(生徒・学生による相互評価)」実践化の可能性も探る予定である。 本研究は「自律的・行動的なエンジニア育成のための高校生向け倫理教育手法の開発」を主に目的としているが、自律性の涵養は能動的な討議や討論、プレゼンテーションによるだけでなく、適切に論理的に明確な根拠をもって、他者の主張や説明を評価することによっても養われる。そのため、生徒・学生によって実践可能なピアレビューの適切な方法の確立も模索する。 この点を含め、倫理学やケースメソッド教授法、協同学習を専門としていない教員が「できること」と「できないこと」は何かを明確にし、生徒・学生はどのような内容でどのような教授法であれば技術者倫理に関連する課題を自分の問題として考えられるかを探り、それをもとに授業教材のプロトタイプを作成する。具体的にはオンラインでも可能な授業方法を含めて、前年度に面接調査に協力してもらった高専や大学の担当教員のアドバイスも得て、10時間分の授業で用いることができる授業コンテンツを作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に計画していた全国の工業高校を対象とした技術者倫理教育実態調査がコロナ禍による対面制限のため実施できず、面接調査に赴く際の旅費、質問紙郵送費が当初の予定に反して使用できなかった。不使用の為に生じた金額は、2022年度に実施する教材コンテンツ作成作業において、個人的つながりのある研究者が勤務する国内の高専や大学・大学院での授業を借りてプロト版を試行するため、その際の旅費として用いる予定である。
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