本研究は,放射線に関する基本的な概念を小学生児童へ無理なく導入するために,直感的理解を支援する視覚・体験型の仮想現実放射線教育教材の開発を行うことを目的としている.なお,12歳以下の児童について,ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)を使用した3D立体視を含むバーチャルリアリティ(以下,VR)体験は,斜視や不同視を引き起こす懸念があることが報告されており,それを受けて本研究では,HMDを使用せずに操作・視覚体験可能な仮想現実教材の開発を進めている. HMDを使用することなく仮想物体を現実空間に表示する技術として,拡張現実(以下,AR)がある.ただし,このAR技術は仮想物体を現実空間に表示するのみに留まり,VR体験の大きな特徴である「仮想空間内に置かれた物体を自由に操作できる」という点が実現されない.そこで研究代表者は,放射線源や遮へい材等の操作によって生じる結果および現象を立体表示するAR教材を複数種類開発し,これら教材のARマーカーを現実空間内で操作することによってHMD無しで仮想物体の疑似的操作を可能にした,オリジナルな仮想物体操作手法を考案した. 2022年度は,当初の研究実施計画の通り,2021年度に実施した北海道及び福島県の小学校教諭に対する質問紙調査の結果から教材ニーズが高かった「放射線の種類」「放射線の飛程距離」「放射線の透過性」「放射線の防護(遮蔽)」について,教育的支援を実現する仮想現実教材の開発を進めた.
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