研究課題/領域番号 |
21K02942
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山内 保典 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (40456629)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アカデミック・インテグリティ / 不正行為 / オンライン授業 / 実態調査 / 教材開発 / ソーシャルリスニング |
研究実績の概要 |
本研究全体では、オンライン授業や試験に特有な不正行為、及び、不正行為に対する知覚の実態を、大学生を対象としたWEBアンケートで明らかにする(研究1)。その結果を基に、対面式授業を前提とした現行のアカデミック・インテグリティ(学習や研究における誠実性)教材の限界を克服すべく、オンライン授業も視野に入れた教材の開発と実用可能性調査を行う(研究2)。 そのうち、研究1に向けた「情報収集」と「予備調査」を、1年目に実施する計画であった。 予備調査を実施するにあたり、最も配慮したのは、いかに学生の生に近い声を収集するかである。実施計画では、2年目の実態調査の調査項目設計に向けた、自由記述式の調査を1年目に予定していた。そこで問題となるのは、その自由記述に「社会的望ましさ」が影響することである。 この問題を緩和するため、最終的には「ソーシャルリスニング」という手法を用いた。ソーシャルリスニングは「自社や製品・サービスに関する消費者のネット上の書き込みを収集し、評判や市場環境を分析すること」(IT用語辞典 e-Words)を指す。もちろん、自由記述式の調査とは別の偏りが生じるが、ネット上の自由な発言から収集されるため、一部の学生の不正行為に対する感覚を捉えることができる。 具体的には、業者に委託して「不正行為の方法・手段」「オンライン授業や試験、インターネットを介した不正行為についての意識」に関連した、直近1年間の大学生のTweetを300件収集した。例えば、オンラインのテストの最大の特徴として「カンニングし放題」をあげる発言など、通常の調査では得難い記述を得られた。これらの記述が、2年目の調査項目を設計するベースとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画から、調査時期と調査方法を変更した。 調査時期について、予備調査の実施に遅れが生じた。その原因は、社会的望ましさを回避する方法を探索したためである。申請時には、2年目の調査項目の設計時点で「社会的望ましさが働きやすいトピックであるため、質問項目については先行研究のレビューと予備調査を通して、慎重に検討する」としていた。しかし、1年目の予備調査においても、社会的望ましさを回避する方が良いと考え直し、その方法の探索に時間を要した。 調査方法について、実施計画作成時は、自由記述式の調査を予定していたが、社会的望ましさの影響を懸念し、別の方法を探った。最終的に、ソーシャルリスニングという手法を新たに取り入れた。実施計画の変更を伴う判断だったが、通常の自由記述式調査では得難い記述を幅広く得られた。また時系列的な分析(例えば、年度始めと年度末での記述の比較など)の可能性などにも視野が広がった。 これらから実施計画書とは異なるものの、予備調査実施という大枠ではおおむね順調であると判断した。あるいは、新たな視野が拓けたことを、予想以上の成果と捉えることもできる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に、ソーシャルリスニングを取り入れたため、Tweetの記述データが得られた。そこで2年目の調査も、Tweetデータを活かす方向で考えている。具体的には、直接、不正行為について尋ねるのではなく、不正行為に関するTweetを例示し、そのTweetに対する意見を尋ねる形を想定している。このことにより、不正行為に対する硬直的な模範回答に陥ることを避け、社会的望ましさによる反応を緩和できると考えている。一方で、不正行為自体に対する判断と、不正行為をTweetするという露悪的な行為・人物に対する判断が混ざる可能性もある。こうした懸念も含め、Tweetの例示や質問内容を慎重に検討する必要がある。
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