研究実績の概要 |
本研究は被害者の非人間化を通じた共感抑制の過程を解明してモデル化し、深刻な差別や葛藤・紛争の抑止に必要な条件を提示することを目的としている。本研究は相手に対する共感的反応が阻害されるポイントとして、対象の苦痛に関する手がかりを取り出す時点と、対象が苦痛下にあると解釈した後という二つに焦点を当てるものである。今年度は、昨年度実施した第二のポイントに関わる質問紙調査を継続した。Hoffman & Trawalter (2016)や、Deska, Kunstman, Lloyd, Almaraz, Bernstein, Gonzales, & Huegenberg (2020)の研究では、人種の異なる対象に対しての苦痛知覚の差異を質問紙調査によって実施している。本研究では昨年度、これに倣って非人間的ラベリングが対象の苦痛知覚に及ぼす効果について検討を行い、非人間的ラベリングの対象は社会的苦痛を感じにくいと判断される傾向を示した。そこで今年度は昨年度の研究の継続として、データの追加及び分析と、また、対象の非人間的ラベルを変更してラベルの種類による影響の差異の検討を行うことで、結果の一般化を目指した。その結果、非人間的ラベリングの対象に身体的苦痛を感じにくいと判断する参加者たちの傾向が示された。昨年度の研究で用いた非人間的ラベルは無生物で社会的な価値の低さを示唆するものであり、今年度用いたラベルは動物的でどちらかと言えば肉体的な強さを示唆するものであった。一方で、両研究において比較対象として用いたポジティブな非人間的ラベルは対象の苦痛知覚に対して効果が見られていない。従って、用いられるラベルの種類によって苦痛知覚に異なる効果がもたらされる可能性が示されており、このメカニズムの特定が次の研究課題として加えられた。
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