研究課題/領域番号 |
21K02966
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
沼崎 誠 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (10228273)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | システム正当化 / 社会系心理学 / 社会格差 / 不平等 / ステレオタイプ |
研究実績の概要 |
格差維持の過程にはどのような心理メカニズムが寄与しているのかを明らかにするために,(1)格差拡大が現状を維持するイデオロギーの支持に及ぼす効果の検討,(2)保有源の格差と原因が協力行動に与える影響について検討を行った. (1)に関しては,主観的社会的経済的地位を測定した大学生参加者に,格差拡大の記事(vs. 統制記事)を読ませ,保守的イデオロギーへの態度を回答させた.結果として,右翼権威主義尺度の権威主義因子では,地位の高い参加者では格差プライム条件でより保守的になるのに対して,低い参加者では統制条件でより保守的になった.一方,因習因子では逆のパターンが見られた.性役割に関する態度では,地位の低い事前態度で偏見の低い男性参加者では,格差プライム条件の参加者は統制条件の参加者に比べて偏見が強まった. (2)に関しては,公共財ゲームにおいて,少数の人のみが多くの財産を持つ現実社会を反映した格差を設定し,保有資源の格差と原因(課題成績 vs. 運)が投資額に与える影響について,新たなサンプルでデータを取得して分析を行った.これまでのデータを見ると,課題成績によってポイントを多く取得した参加者は公共財に投資しない傾向があるが,実施したサンプルによってはこの傾向が見られないこともあり,さらなる検討が必要であることが明確となった. 当初の計画にはなかったが,コロナパンデミックの状況を踏まえ,コロナ下の中で旅行に行くという他者の行動に対して妬みが生じ,格差を解消する動機が高まるのかについて実験を行った.結果として,他者との格差が生じた旅行に行っていない参加者において,妬み感情が生じ,他者の旅行よりもより優れた旅行に行く動機が高まり格差解消を目指すことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染症蔓延のためある種のプライミング操作が有効に働かない可能性があるために,実験の準備のみ行い実施できなかった実験があったため.
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今後の研究の推進方策 |
(1)格差拡大が現状を維持するイデオロギーの支持に及ぼす効果を検討する研究では,2021年度に大学生で実施した実験を受けて,2022年度では手続きを改良した上で,幅広い社会階層を含む一般サンプルを対象とした実験をおこなう. (2)保有資源の格差と原因が協力行動に与える影響については,これまでのデータを再分析するとともに,公共財ゲームにおいて小数者のみが運によって多くの収入を得る状況で,収入の格差が固定していると教示する条件と,収入の格差が流動する可能性があると教示する条件を設け,比較する実験を行う. (3)2021年度予定していたがコロナパンデミックのため実施できなかった研究テーマである,「システム脅威をプライミングすると地位に基づいた相補的ステレオタイプの適用が高まるか」については,世帯収入を把握している調査会社モニターから社会的地位の高い層と低い層の両方を含む形で参加者を募集して実験を行う.具体的には,日本の脅威となる(vs. 脅威とならない)外集団に関するニュースを読ませそのニュースに対する感想を尋ねることにより参加者間でシステム脅威を操作し,社会的成功者(vs. 失敗者)の印象を温かさ次元と有能さ次元で測定する. また,理論的検討として,システム正当化理論に関して,「Jost, J. T. (2020), System justification theory. Harvard University Press.」の翻訳を共編者として2022年度中に出版できるよう進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症のため実施できなかった実験があったため. 残金は次年度に実験を実施する際に使用する.
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