研究課題/領域番号 |
21K02984
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
堀田 結孝 帝京大学, 文学部, 准教授 (90725160)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 社会的ネットワーク / 関係流動性 / 一般的信頼 / 文化 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、社会的ネットワークの形成と個人の心理傾向との関連を調べることを通して、関係流動性に代表される社会環境要因から個人の心理及び行動を説明するアプローチの妥当性を検討することにある。 2021年度の大学生を対象にした調査及び実験研究の結果、一般的信頼(他者一般に対する信頼)と参加者の自己報告による友人数との間に正の相関関係が見られ、一般的信頼は社会的ネットワークの拡張に関与する心理傾向である可能性が示唆された。その一方で、関係流動性の認知(社会における関係の選択肢の多寡に対する信念)については、一般的信頼やネットワーク指標と有意な相関が見られなかった。研究成果は、2022年度においてJapanese Psychological Researchに掲載された。 この結果の頑健性を検討する目的で、一般人を対象として友人数、信頼、関係流動性、その他の心理尺度を尋ねる調査研究を実施した。その結果、一般的信頼と自己報告による友人数との間に正の相関関係が見られ、学生サンプルで確認された結果が頑健な傾向であることが確認された。更に、学生サンプルの結果と同様に、関係流動性の認知については信頼を反映する指標及び友人数と有意な相関は見られなかった。 また、本研究計画において取得した学生データでは他にも、文化的自己観及び精神的健康の指標など、社会的ネットワークと予測される尺度をいくつか測定していた。分析の結果、相互協調的自己観のうち他者との調和を望む傾向と社会的ネットワーク数との間に関連があることを確認している。この研究成果は日本心理学会第86回大会で発表し、再現性を検討する目的の追加研究を計画している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果は、学会発表及び論文としてアウトプットに繋げられている。更に、対人心理の文化差を説明する要因としての関係流動性の理論的意義を踏まえ、これまでの研究で得られた結果を比較文化研究を通して発展的に検討していくことを計画しており、研究は順調に進められているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
先行研究の知見及び理論的予測とは異なり、日本人を対象とした調査で関係流動性、社会的ネットワーク指標、一般的信頼との間には有意な関連が見られなかった。関係流動性の議論では、社会における対人関係の選択肢の多寡に対する信念は新たな関係の拡張だけではなく、親密な関係性の維持にも寄与するという理論的予測が導かれている。これを踏まえ今後は、社会的ネットワークの形成や維持に寄与すると予想される心理傾向として一般的信頼に限らず、親密性の強化を望む傾向などの側面を区別した上で、関係流動性が社会的ネットワークの形成においていかなる側面で寄与しているかを検討する目的で研究を推進させていく。対人心理の文化差を説明する要因としての関係流動性の理論的意義を踏まえ、対人心理と社会的ネットワークとの関連、その関連性の文化差及びその文化差が関係流動性によって説明されるかを検討するために比較文化研究の実施も検討している。クラウドソーシング・サービスを利用して米国在住者のデータを収集し、日本人参加者のデータとの比較を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に参加した学会等について、所属機関の旅費支援を受けることができた。また、2022年度に掲載が決定した学術論文誌のうち、オープンアクセスの経費が不要のものがあった。以上の事由により、当初の予想よりも経費がかからず、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、解析に用いるマシンの購入、2022年度の研究にかかる経費、学会発表にかかる旅費、及び2023年度に執筆及び投稿を計画している論文の校閲及びオープンアクセスに伴う費用に充てる。
|