研究課題/領域番号 |
21K02985
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
新谷 優 法政大学, グローバル教養学部, 教授 (20511281)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 思いやり目標 / 自己イメージ目標 / ゼロサム思考 / 時間の捉え方 / 援助行動 / 向社会的行動 |
研究実績の概要 |
援助要請がない状況での見知らぬ他者に対する援助は、他者のウェルビーイングを高めたいという「思いやり目標」をもつ場合に促進され、他者に悪い印象を与えたくないという「自己イメージ目標」をもつ場合に抑制させることがわかっている。本研究の目的は、対人目標が援助行動を促進または抑制する心理的なメカニズムを明らかにすることにある。2023年度は、思いやり目標は、「援助は他者のためでもあり、自分のためでもある」という非ゼロサム的な思考を高めることにより、援助を促進することを明らかにした研究を論文にし、国際誌に投稿した。また、「人のために費やす時間は、自分のための時間でもある」という非ゼロサム的な時間を経験した人は、「人に時間を取られる」という経験や、「人のために自分の時間を犠牲にする」経験をした人に比べ、より多くの時間を他者の援助にあてる傾向があることを明らかにした研究を論文にした。これを国際誌に投稿し、査読結果を待っている。さらに、援助が相手のためになる程度と、相手に喜ばれる程度を独立に操作したシナリオ実験を行った結果、思いやり目標をもつ人は、援助が相手のためになる程度が高いときに(たとえ援助が相手に喜ばれなくても)援助をする傾向が高くなる一方、自己イメージ目標をもつ人は、援助が相手に喜ばれる程度が高いときに(たとえ援助が相手のためにならなくても)援助をする傾向が高くなることを明らかにした。これらの研究結果は、国際学会で発表し、現在、国際誌に投稿すべく論文を執筆中である。これらの一連の研究から、援助の要請がなく、相手が援助を必要としているのか、援助を求めているのかわからないような状況でも、援助の手を差し伸べる心理的な要因とメカニズムが明らかになってきた。援助が必要でも助けを求められない人に援助を届けるための重要な手掛かりとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
援助が相手のためになる程度と、相手に喜ばれる程度によって、対人目標が援助を促進または抑制するという仮説に対して、昨年度は予測と異なる結果が得られたと思っていたが、再度分析したところ、概ね仮説通りの結果となっていることがわかった。現在、論文を執筆中であるが、分析に時間がかかったため、当初の計画からはやや遅れている。 また、計画では、援助の要請がないような状況で援助を申し出ると、批判を受けるかも知れないという不安(お節介懸念)が高まると予測し、非接触バイタルセンサーを用いてストレス反応を測定する予定であった。しかし、これまでの研究で、援助者は援助が批判されることよりも、援助が相手の役に立つかを気にしていることがわかったので、援助の要請がないような状況で援助を申し出たとしても、ストレス反応は起きない可能性が出てきた。そこで、研究計画を変更し、援助が失敗した場合(援助をして批判を受けた場合)に、援助者の対人目標によって援助に対する後悔や満足度が異なるかを調べた。一つ目の実験では予測通りの結果となったものの、二つ目の実験では結果が再現されず、その原因がまだ解明できていない。 さらに2023年度はウェブ調査を行う予定であったが、見知らぬ他者への援助の経験とお節介懸念の関係を調べた事前調査では、両者に弱い正の相関がみられた。この結果は予測に反し、お節介懸念が援助を抑制していないことを示している。そこで本調査を中断し、お節介懸念の他に、お節介行動を促進または抑制する変数を洗い出す分析を進めているところである。結果が予測と異なったことにより、研究計画を修正しながら進めている。厳密に計画通りとは言えないため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
援助を批判されることの懸念(お節介懸念)が、援助を躊躇させる大きな要因の一つだと考えて研究計画を立てていたが、お節介懸念と援助行動には想定とは逆の相関が出たため、お節介懸念の要因を見つけるのではなく、お節介だと思われても援助をする人の特徴について、データから探索的に拾い上げることにする。また、これまでの研究からは、援助要請がない場合でも援助を申し出る要因として、思いやり目標や、非ゼロサム的な思考・時間の捉え方、援助が相手の役に立つという信念が示されてきたが、当初の計画にあったとおり、個人の特性だけでなく、地域の特性(規範の強さ、コミュニティ感覚、相互協調的な文化背景など)も検討する。援助要請がない状況での援助行動を促進する社会環境的な要因は、これから調査やインタビューを通して明らかにする。さらに、援助者の対人目標や非ゼロサム思考によって、被援助者の反応(感謝する、迷惑がるなど)の受けとめにどのようなちがいがあるのか、なぜちがいが生じるのかも検討を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
援助の要請がない状況で援助を申し出る際に、批判を受けるかも知れないという懸念が高いと、ストレス反応を示すだろうという仮説を立て、非接触バイタルセンサーでストレス反応を測定するつもりで、50万円の予算を見積もっていた。しかし、批判を受けるかも知れないという懸念は、援助を躊躇する一番の要因ではないことがわかったため、非接触バイタルセンサーを用いる実験を中止した。また、ウェブ調査を行う前の事前調査で仮説と異なる結果が得られたために、本調査の実施を次年度に見送った。
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