研究課題/領域番号 |
21K03016
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
大対 香奈子 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (80509927)
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研究分担者 |
大久保 賢一 畿央大学, 教育学部, 教授 (40510269)
田中 善大 大阪樟蔭女子大学, 児童教育学部, 准教授 (60729143)
野田 航 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (70611440)
庭山 和貴 大阪教育大学, 連合教職実践研究科, 准教授 (80805987)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 学校規模ポジティブ行動支援 / 教員のメンタルヘルス / 教員の専門性 / 応用行動分析学 / 研修プログラム |
研究実績の概要 |
本研究課題は,科研費基盤研究C「学校規模のポジティブな行動支援の効果的な導入および実践と教員の専門性向上(課題番号:18K03053)」に後続するものとして計画された。本研究課題の目的は以下の2点である。 【1】学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)の実践に取り組むことで,児童生徒の問題行動に対する教師の対応の仕方や,適応的な行動を増やす指導の仕方がより効果的なものに変化するかを検討すること。 【2】SWPBSの実践に取り組むことは,教師のメンタルヘルスを向上させる効果が見られるかを検討すること。
目的【1】のために,昨年度は個々の教師がどの程度PBSに沿った実践を行えているかを測定するためのチェックリストを作成したが,今年度はそのチェックリストを用いてSWPBSをまだ実践していない教師142名に調査を行い,SWPBSを導入していない段階でどの程度教師がPBSの実践を行っているかを調べた。その結果,SWPBSを行なっていない教師であっても,PBSに沿った実践を部分的には実施しているという回答が見られたが,特に望ましい行動への承認という点については,他の実践に比べると実施している程度が低めであった。また,さらにSWPBSを実践する前と後に,24名の教師にこのチェックリストによる自己評価を行なってもらい,SWPBSを実践することでPBSに沿った実践がどのように変化するのかを検討した。その結果,望ましい行動に対する承認はSWPBS導入後に増加が見られたが,その変化は有意なものではなかった。加えて,目的【2】についての検討のために,教師効力感とバーンアウトにもSWPBS導入後どのような変化が見られるかについても検討したが,回答が得られた教師の数が10名と少なく,十分な検討は行えなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的【2】の教師効力感とバーンアウトと教師個別のPBSに沿った実践との関連については,広く調査を実施する機会がなく,十分に検討が行えなかった。SWPBSを導入した学校においてのみ,導入の前後で調査を実施できたが,その調査においても導入前後の両方で回答が得られた人数が少なく,明確な結果は得られなかった。 多忙を極める教師を対象にこのような調査に協力していただくことの限界もあり,調査を実施していただく際に項目数を絞って依頼する必要性などもあることから,十分な数のデータを収集することが難しかった。今後は実施時期について,夏休み期間などの教師にとって実施しやすい時期に依頼するなどの配慮を行い,より多くの回答が得られるように工夫していきたい。また,SWPBSの導入前後の変化に対する調査については,SWPBSを新規で導入している学校そのものの数に限りがあることも一因であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
教師個別のPBSに沿った実践の程度について,チェックリストを開発することにより測定が可能となったがこのチェックリストで教師が自己評価している内容が実際の実践行動とどのくらい一致してくるのかについての検討が十分にはできていない。特に望ましい行動に対する称賛という領域のスキルについては,SWPBSを実施すると得点としては上がることがチェックリストの結果から確認されているが,その差は有意ではなく,また実際の観察による変化は確認できていない。望ましい行動に対する称賛は,SWPBSの効果を高める上でも重要な個々の教師の実践であると考えられるが,SWPBSの導入だけではこのスキルの実践は十分には増加しないことがこれまでの研究からも示されている。したがって,望ましい行動への称賛を含め,個々の教員のPBSに沿った実践を増やすための研修プログラムとしてセルフモニタリングを導入した介入を今後行い,そのような手続きを加えることでSWPBSがさらに効果的な実践となるのかを検討していきたい。その際のセルフモニタリングの実施を補助するための,スマートフォンで利用できるアプリの開発も今後行なっていく予定である。 また,教師個別のPBSに沿った実践が,教師の効力感やバーンアウトとどのように関連するかについては,十分な検討がまだ行えていないため,より多くの教師に対して調査を行い,PBSの実践を行うことが教師のメンタルヘルス向上にもつながるという裏付けとなるデータが得られるよう,さらに広く調査を実施することも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度までの研究成果より,個別の教員のPBSに沿った実践の程度を測定するチェックリストが完成したため,今後はこのチェックリストによるアセスメントから把握した教師個別のニーズに対応して,その不足している実践領域についての介入を行っていきたいと考えている。その際,介入として行うトレーニングのコストや,教師への侵襲性の低さという観点から,セルフモニタリングを活用することを検討している。そのための補助となるアプリの開発を予定しており,そのアプリ開発にまとまった予算が必要となったために,次年度への繰越をして予算確保を図ることとした。
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