研究課題/領域番号 |
21K03019
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小嶋 秀樹 東北大学, 教育学研究科, 教授 (70358894)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 自閉症 / 認知粒度 / 他者理解 |
研究実績の概要 |
本研究は,多様な病像をもつASDに対して,認知粒度という視座を与え,そこから多様な病像を統一的に説明するモデルを構築することを目的としている。令和3年度は,この認知粒度についての学際的に追究し,知覚・行動・脳構造における粒度と,コミュニケーションにおける他者理解(心理化・共感など)の関係について考察を深めた(小嶋 秀樹: ASD療育においてロボットができる役割 (S29-2), 第117回 日本精神神経学会 学術総会 シンポジウム「ロボット技術が精神科診療において果たす役割」(京都/オンライン) 2021/9/19.)。また,ASDだけでなく(それとは逆転した病像を呈する)ウィリアムズ症候群についても文献調査を進め,社会性の発達が上方向にも下方向にもレンジからはずれることで発達障害となる示唆が得られた(小嶋 秀樹: ASDとWSにみるヒト情報処理とモノ情報処理のへだたり (S27-5), 第117回 日本精神神経学会 学術総会 シンポジウム「超社会性を呈する希少疾患に着目した社会性認知研究の現状と展望」(京都/オンライン) 2021/9/19.)。加えて,本プロジェクト(4年間)の後半で実施するロボットを使った心理実験の準備として,従来のロボットをより扱いやすいものにする改良を検討し,またインタラクションの質的分析について考察をまとめ,その手法の詳細と理論的検討内容を論文化している(小嶋 秀樹: ロボットを媒介とした参与観察のもつ可能性, 質的心理学研究, Vol.21, pp.7-19, 2022.)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
認知粒度にもとづく統一的なASDモデルの追究については,従前から計画していたとおりの検討・モデル精緻化を進めることができた。具体的には,知覚・言語カテゴリと大脳皮質におけるミニカラム粒度の関係を理論化することや,ASDの代表的病像であるカテゴリの細分化,ゲシュタルト認知・亢進した知覚機能,感覚統合の弱さ・協調運動障害などの説明モデルの構築が進展した。ロボットを使った心理実験の準備も進んでおり,遠隔制御システムの整備や質的分析方法の再検討を進めた。また,これまでの取り組みに関する解説を発表している(小嶋 秀樹: ロボットを活用した自閉症研究・自閉症療育, 医学のあゆみ, No.278, pp.943-947, 2021/9.)。一方で,これらを人工ニューラルネットによりシミュレーションをとおして確認する部分はまだ完成していないため,来年度までに成果を出す予定である。また,ASD者の認知を情動システムが支えていることがわかり,ASDにける情動(と感情)の差異についての調査を始めている(小嶋 秀樹: ロボティクス研究からみた感情の成り立ち, 日本教育心理学会 第63回(2021年) 総会 学会企画シンポジウム「デジタル社会における感情の発達と教育」, 2021/8/21-30.)。この情動に関する検討は,従前の計画にはなかったが,ASD者のもつ独特の身体感覚や自己感の特徴を,本研究で追究するモデルに統合することが可能になる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4・5年度には,本プロジェクトの中核となる具体的な心理実験等を実施し,知覚・言語カテゴリの弁別粒度や他者行動の予測性・制御性を測定していく。 具体的には,CG表情や幾何学図形等の弁別課題(強制選択・ 自由分類)によって知覚カテゴリの粒度を測定する。また言語カテゴリの粒度測定については,同様の刺激に対するラベル付け課題(個別・集合)や反応潜時にもとづくプロトタイプ配置分析等 を,ASD群・TD群を対象として実施する。 これらの心理実験をとおして認知粒度の推定方法を確立するとともに,ASD者がより細かな認知粒度をもつことを実証する。 他者行動の予測生・制御性については,ロボットやアニメーションキャラクタによって呈示された目的的動作に対して,被験者がどのような粒度で捉えているのかを測定する。そのための実験手法の開発・精緻化やロボットの準備を現在進めているところである。令和6年度には,それまでの取り組みを総合することで「認知粒度がASDの中間表現型である」ことを実証し,認知粒度にもとづくASDモデルを完成させ,さらにカテゴリ粒度や他者行動の予測性・制御性等から認知粒度を推定可能とすることで客観指標にもとづく新しい療育手法の提案へと繋げていきたい。また,定型発達者がなぜコミュニケーション可能なのかという根源的な問いについても,認知粒度の観点から説明を与えていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に,本研究に関する3件の学会発表を行った。うち2件について国内旅費を120千円計上していた。実際にシンポジウム口頭発表を行った3件はいずれもオンライン開催となってしまったため,そのための旅費が使用されなかった。来年度以降は,より学会発表が活発化する予定なので,そのための旅費として活用していきたい。
|