研究実績の概要 |
数量概念の発達は,就学前から始まり,幼児期に大きく変化する。乳児は,3つまでの数を弁別するオブジェクトファイルシステムと,1:2の比率以上の量を弁別するアナログマグニチュードシステムを持って生まれてくる。そして,幼児期には,それぞれの生得的なシステムを基盤に,数量概念が2つ形成される。ひとつは数をかぞえるカウンティングスキーマであり,もうひとつは全体量の多少(大小)を正確に判断する全体量スキーマである。これらの数量概念の獲得により,生得的な能力の制約を乗り越えられる。 近年,このような数量概念の発達に,手指が関係していることが実験的な研究結果に基づいて報告されている。例えば,自分の手指の形を正確に認識できている方が,正確に数量の大小を判断できたり,計算が正確であることも示されている(Noel, 2005; Gracia-Bafalluy & Noel, 2008)。また,自分の手指を意図したとおりに動かせる手指が器用な子どもほど,計算の成績が良いことも示されている(浅川 & 杉村, 2009, 2011; Asakawa & Sugimura, 2014; Asakawa, Murakami, & Sugimura, 2019)。 手指と数量は,その発達過程の中で関係が構築されていくと考えられるが,実際の幼児の生活場面に焦点を当て,手指と数量概念の発達の関係を検討した研究は見当たらない。 本年度は,年少児を対象に遊びや日課の中で数量を扱う場面を観察した。その結果,そもそも数量を扱う場面自体が多くはなく,自由遊び場面においては量的な活動が多く,手指との関連付けはあまりみられなかった。積極的に手指で数量を表す場面としては,手遊びの場面で多く観察された。
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