研究課題
本研究は,幼児期から児童期の子どもを対象に,「社会性の発達を左右する認知バイアスに関する心理学的研究」に着目し,その発達過程を実証的な研究によって検討していくものである。令和3年度は,私がこれまで行ってきた不作為バイアスに関する知見を発展させた。過去の心理学の研究から,たとえ行為者の意図や生じた結果が同じであっても,作為と不作為を比較すると,私たちは不作為の方を寛容に判断する傾向が繰り返し報告されており,不作為バイアスとして知られている。これは,「何かをする/何もしない」という「行動の有無」に主として焦点を当てられた研究から明らかになっている。そこで,ここでは「発言の有無」に焦点を絞り,作為の嘘と不作為の嘘の道徳的判断においても不作為バイアスが生じるのかどうか,さらに年齢や状況によって,バイアスの程度に差があるのかを検討した。その結果,用意したすべての状況で,作為による嘘を不作為による嘘よりも悪いと判断しており,大人だけでなく子どもでも,嘘の道徳的判断において不作為バイアスが見られた。さらに,バイアスの強さは年齢によって違いがあり,総じて小学生より大人の方がバイアスが大きかった。このことは,大人自身も「不作為による嘘に対して,甘く判断しがちになる傾向」に気づきにくいことを意味する。その結果,子どもの道徳性を向上させる機会を逸している可能性もありうるという教育的な示唆も導くことができた。
2: おおむね順調に進展している
今年度に検討を考えていた研究について,分析と考察ができたことから,おおむね順調に進展していると判断した。
今年度の研究をさらに発展させ,社会性の発達について,当初の目的を達成したいと考えている。
当初に参加を考えていた国内および国際学会について,すべてオンラインとなり,その旅費に相当する分が未使用となったためである。研究をまとめる上で必要となる追加調査と論文の英文校閲費などに使用する予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Experimental Child Psychology
巻: 215 ページ: 105320~105320
10.1016/j.jecp.2021.105320