研究課題
本研究は,幼児期から児童期の子どもを対象に,「社会性の発達を左右する認知バイアスに関する心理学的研究」に着目し,その発達過程を実証的な研究によって検討していくものである。令和4年度は,私がこれまで行ってきた作為/不作為に関する知見を発展させるとともに,敵意帰属バイアスに関連する研究を行った。過去の心理学の研究から,たとえ行為者の意図や生じた結果が同じであっても,作為と不作為を比較すると,私たちは不作為の方を寛容に判断する傾向が繰り返し知られており,不作為バイアスとして知られている。これは,「何かをする/何もしない」という「行動の有無」に主として焦点を当てられた研究から明らかになっている。これに対して,敵意帰属バイアスは,認知バイアスの1つであり,相手の言動が敵対的によるものだと認識してしまう傾向を指すものとされる。これまでの研究では,他者の意図が曖昧な状況で自身が何らかの被害を受ける場面(曖昧な挑発場面)を描いた仮想場面を用いて,他者の意図を敵意に解釈する傾向を検討することが一般的で,攻撃的な児童は他の児童に比べて敵意帰属傾向が強いことが知られている。本研究では,先行場面の後の挑発行動の作為・不作為が意図解釈にどのような影響を及ぼすのかを大人を対象に検討した。全体的な結果としては,悪意のある不作為において,敵意帰属傾向が見られた。このことから,大人においても,敵意帰属が見られ,相対的に作為より不作為の場面で敵意帰属が強い傾向であることが明らかになった。今後は,児童期の子どもにも検討することで,発達的な変化を見ていくことを考えている。
2: おおむね順調に進展している
今年度に検討を考えていた研究について,分析と考察ができたことから,おおむね順調に進展していると判断した。
今年度の研究をさらに発展させ,社会性の発達について,当初の目的を達成したいと考えている。
当初に参加を考えていた国内および国際学会について,オンラインとなったり,大学の仕事と重なり,出張できなくなったことなど,その旅費に相当する分が未使用となったためである。研究をまとめる上で必要となる追加調査と論文の英文校閲費などに使用する予定である。
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