研究課題/領域番号 |
21K03027
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
前原 由喜夫 長崎大学, 教育学部, 准教授 (60737279)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 動機づけ / 向社会性 / 利他性 |
研究実績の概要 |
利他的動機づけと利己的動機づけの個人差を同時に測定する尺度を開発するために,利他的動機づけあるいは利己的動機づけを測ると考えられる自作の質問項目セットと共に,共感性尺度,自己犠牲尺度,自己コントロール尺度,Big Five尺度,ADHD傾向尺度,自閉症傾向尺度などを実施し,項目の精選と妥当性および信頼性の検討を行った。その結果,利他的動機づけは質問項目中の対象となる他者と回答者との関係性(例:親しい友人かまったくの他人か)によって異なる因子が抽出される可能性が示唆された。また,利己的動機づけは利他的動機づけよりも個人差が小さく,天井効果を示す項目も散見された。例えば,「自分への利益が確実に見込める課題にはやる気が出る」という項目は,「あてはまる」という回答がほとんどで,意味のない項目であった。「利他的動機づけと利己的動機づけの高低の組み合わせによって,大きく4つの動機づけ傾向パターンを測定する」という当初想定していた尺度はまだ開発できていない。利他的動機づけの対象者をいくつかに分けることと,利己的動機づけの個人差をより広く捉えられる質問項目を考案し,再度新たな質問項目セットで尺度を作成し,信頼性・妥当性の検討をおこなう必要があると言える。 今年度はさらに,利他的動機づけにもとづいた学習モチベーションあるいは利己的動機づけにもとづいた学習モチベーションを高めるための動画の試作版を作成した。どちらの動画も4分程度で,主人公の中学生男子が夢の中で将来の自分を目撃するというストーリーであった。例えば,利己的動機づけ動画のストーリーは,将来の自分が無職のニートになっており,「どうしてこうなったの!?」と驚いているところに学問の神様がやってきて,勉強は自分のためになるということをさまざまな事例を通して諭していくというものであった。今後本番作成の前にストーリーを見直したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度中に利他的動機づけと利己的動機づけの個人差を同時に測定する尺度の開発を完了する予定だったが,実際にデータを取得して分析した結果,一筋縄ではいかないことがわかった。来年度は今年度得られた問題点を整理し,方向性を慎重に検討したうえで,信頼性と妥当性の高い尺度の作成に再度挑戦したい。当初想定していた尺度の形から少しずれるかもしれないが,今後の研究や学校教育に有用な尺度の開発をめざしたい。 しかしながら,3年目に予定していた利他的/利己的動機づけにもとづいた学習モチベーションを向上させるための動画の作成に関しては,すでに今年度走り出している。ストーリーに関してはよりよいものをめざして修正を要する部分もあり,上述した尺度開発の遅れが取り戻せるかはわからないが,考え得る限り,可能な限りのことを実行していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度の反省を踏まえて,利他的動機づけと利己的動機づけの個人差を同時に測定する尺度の開発を行う。具体的には,利他的動機づけに関して,親しい友人と見知らぬ他人への利他的動機づけを別個の因子と仮定したうえで昨年度使った質問項目から精選し,ときには文言を修正して使用する。また,利己的動機づけに関しては,個人差を見出すために,決して多くの人には当てはまらないであろう質問項目を考えて実施する。 尺度を開発した後は,その尺度によって測定された2つの動機づけの個人差が,自分あるいは他者の利益となる認知的コントロール課題のパフォーマンスの個人差と関連するかを調べ,尺度の妥当性を確認したい。認知的コントロール課題には,視空間性ワーキングメモリ課題を使用する。成功したら他者への利益が生じる試行と自分への利益が生じる試行を用意し,利他的動機づけが高く利己的動機づけが低い参加者は前者の試行の成功率などが高いのか,逆に利他的動機づけが低く利己的動機づけが高い参加者は後者の試行の成功率などが高いのかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は60万円の予算のうち,半分の約30万円しか使用しなかった。新規尺度の開発にあたり,データの収集をアンケート会社に外注する計画だったが,満額を使っても必要十分な数のデータ収集を依頼できないことがわかったため,外注せずに自力でデータを集めたことが最大の理由である。また,世界的な半導体不足の時期に差し掛かってしまい,希望していたスペックのパソコンが手に入らず,他機種の購入を控えたことも大きな理由のひとつである。パソコンに関しては,次年度にパソコンを用いた心理学実験も予定しているため,余裕をもって購入する予定である。
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