教科学習には様々な高次認知処理が必要になる。学習内容の暗記などの認知処理だけではなく、設題を理解し、問題を解くという認知処理にはワーキングメモリの働きが特に重要である。実際にワーキングメモリ能力と教科学習成績には強い相関が先行研究によって報告されている。発達障害(特に注意欠如/多動障害:ADHD)を抱える児童の視空間ワーキングメモリ能力と算数力は定型発達児よりも弱いことが数多くの先行研究で報告されている。ゆえに、ADHD児の視空間ワーキングメモリの弱さは彼らの算数成績の低さの主たる原因であると考えられる。本研究の目的は、ADHD児の視空間ワーキングメモリのトレーニング課題(パソコン上で操作)でこの能力を向上させ、その効果が算数問題(計算問題、文章問題、図形問題)の正答率を高めることにつながるのかを検討することであった。本研究の視空間ワーキングメモリトレーニング課題では「視覚表象に操作を加え、その操作結果を保持し、その保持している視覚表象にさらに操作を加える」という操作と保持の連続遂行を求めた。2023年度では、約20名のADHD児を対象にワーキングメモリトレーニングを実施した(2024年5月末に終了予定)。比較対象として別のADHD児(15名)に短期記憶課題を実施させた(2024年5月末に終了予定)。彼らは約1か月のトレーニングを行った。トレーニング前後に算数テストを実施し、ワーキングメモリトレーニングを受けたADHD児の事後テストの成績が向上している場合は、そのトレーニングの効果であると考えられる。最終的な分析は6月初旬に行う予定である。現時点で得られているデータで分析したところ、ワーキングメモリトレーニングを受けたADHD児の算数成績向上が認められている。
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