研究課題/領域番号 |
21K03081
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
岡村 尚昌 久留米大学, 文学部, 准教授 (00454918)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 睡眠習慣 / 睡眠習慣の乱れ / 不規則型睡眠 / 唾液中バイオロジカルマーカー / アロスタティック負荷 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,大学生を対象にして心身の健康状態に対する睡眠の位相・質・量の機能や役割について,生活習慣や心理社会的要因との関連性も含めて明らかにすることである。加えて,睡眠とストレスに対する生物心理学的機能の反応性や回復過程との関連性について,位相・質・量がそれぞれ異なる機序で影響を与えることを明らかにすることである。本年度は,睡眠習慣の乱れの有無によって代表的な唾液中バイオロジカルマーカーであるコルチゾール,free-MHPG,s-IgAがどのように異なるのか検討した。 (研究方法)対象者:117名(男性57名,女性60名,平均年齢19.6±1.5歳)を対象とした。手続き:大学の講義時に集団一斉法にて睡眠習慣調査票およびピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)日本語版への記入を求めると同時に,サリソフトを用いて唾液の採取を行った。就寝および起床時間が週に4回以上,2~4時間の範囲で変動する状態を睡眠習慣の乱れ(不規則型睡眠)と操作的に定義し,睡眠習慣の乱れの有無によって唾液中コルチゾール,free-MHPG(中枢ノルアドレナリンの最終代謝産物),分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)がどのように異なるのか検討した。 (結果と考察)不規則型睡眠群は規則型群と比較して,PSQIで評価される睡眠効率及び総得点が有意に高値であった。さらに,不規則型睡眠群では唾液中のコルチゾール分泌量が有意に高く,s-IgAは有意に低かった。有意傾向であるが,free-MHPG含有量も高値を示した。一週間の睡眠時間や就寝時間,起床時間の平均値については,睡眠習慣の乱れの有無によって違いは認められなかった。これらの知見から,慢性的な睡眠習慣の乱れが, NA神経系の活性やコルチゾールの過剰分泌,免疫機能の低下などのアロスタティック負荷をもたらし,ストレス疾患に罹患する危険性を高かめる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画に従って,質問紙による調査研究は実施できたものの,covid-19の影響で対面によるバイオマーカーの採取及び測定が限定されてしまった。そのため,バイオマーカーと質問紙との関連性に関する検証が完了していない。以上のことから,睡眠の位相・質・量と生物心理社会的要因との関連性に関する知見の集約がやや遅れている。 次年度も研究計画通りに引き続き,睡眠の位相・質・量と生物心理社会的要因との関連性(フィールド調査研究)に関する検討を継続する予定であり,遅れは充分取り戻すことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従って研究を進めるが,covid-19の影響も考慮して,研究方法等を順次見直しながら実施する。令和4年度も,研究計画通りに引き続き,睡眠の位相・質・量と生物心理社会的要因との関連性(研究1)に関する検証を行い完了させる予定である。 対象者:参加の同意が得られた200名(18~30歳,男女半数)を対象とする。手続き:対象者に対して, 3次元型睡眠尺度(3DSS)に加えて,共同研究を行っているロンドン大学のSteptoe教授と共同開発した「健康行動調査」(Steptoe et al., 2007)や健康度検査(GHQ-28やSF-36など)などを実施する。加えて,参加者の中から同意の得られた100名は,唾液採取を任意の平日と休日の起床時,起床後30分と45分,就寝前の合計4回行う。唾液中バイオマーカーについてはコルチゾール, CRPやIL-6はマイクロプレートリーダーを用いて,MHPGはガスクロマトグラフィー質量分析器(GC/MS)を用いて定量する(Okamura et al, 2011)。結果の分析:SPSSを用いて3DSSの得点と健康やストレスの自覚,バイオマーカー,生活習慣や健康行動,心理社会的要因との関連性について多変量解析などにより横断的に分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
covid-19の感染防止等の影響によって,対象者と対面での接触が制限され,バイオマーカーの採取と測定が限定的になった。加えて,当初参加予定であった国内外で開催された学会が緊急事態宣言等により延期,中止,web開催への変更等になったこと,県外への移動が制限されたことなどにより本来使用する予定であった旅費消化ができなかったため。 次年度は研究推進方策に従って,本年度終了予定であったバイオマーカーの測定のためのキットの購入費用,成果発表の旅費交通費に充当させる。
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