研究課題/領域番号 |
21K03109
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研究機関 | 会津大学 |
研究代表者 |
小川 千里 会津大学, コンピュータ理工学部, 上級准教授 (90340760)
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研究分担者 |
煙山 千尋 岐阜聖徳学園大学, 教育学部, 准教授 (10615553)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 指導者 / 依存 / 依存四類型 / スポーツ臨床 / スポーツ才能教育 / カウンセリング / 虐待 / 家族・家族的関係 |
研究実績の概要 |
国際大会等で活躍するアスリートの多くは,幼少期からスポーツの才能教育を受け指導者となる。彼らによる虐待(暴力や暴言など)がしばしば報じられるが,われわれは,これらの背後に,アスリートと指導者の間にある家族的関係における依存があることを示してきた。競技引退後の指導者にとって自立は最重要課題のはずであるが,そこでは指導者の自立が進まずに,アスリートを支配・統制する様が浮き彫りになった。本研究は現役引退後に指導者となった者を対象とし,依存性と虐待発生メカニズム,およびその防止への介入の方略について,定量的調査(「依存四類型」と虐待の様相に関する調査),定性的調査(指導者への縦断調査)により解明しようとするものである。本研究の目的はスポーツ才能教育における虐待発生のメカニズム,およびその防止のための介入の方略について,指導者の依存性に焦点を合わせて検討するものである。研究期間全体において,(A)指導者の依存性とスポーツ虐待の様相,(B)指導者の依存から自立のプロセス,虐待発生・持続のメカニズム,(C)依存に応じた指導者の支援方法の開発と介入,効果に関する検討を計画している。 令和3(2021)年度開始当初,定量的調査により(A)を進行する予定であった。しかしながら,後続の「現在までの進捗状況」で示す事情により,本課題についての文献検討,そしてその内容を基に,先行する科学研究費課題で収集した5年後縦断調査のデータを本研究課題の観点である依存性からみた人格形成の様相から再分析することにより進行した。その結果,家族関係の再構築は進む一方で,指導者の虐待様が継続的に見られ,選手への依存が長期化すること,また,これへの対応として,指導者の幼い頃からの心理特性に着目することを通じて,対人関係へのトレーニングやネガティブな関係に陥らないような関係性の構築の重要性を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和3(2021)年,本研究課題のほか,先行する科研費課題(18K03143)の最終年度,および他の研究課題(令和3年12月末まで)を同時進行する予定で,年度開始当初申請し,研究開始のための物品の購入などを進めていた。しかしながら,その直後に当時の研究代表機関において研究代表者の所属が年度末まで保証されないこと,それについての説明を求めることに年度末までの多大な時間と労力を要したため,研究を開始・進行できない事態に見舞われた。そこで,本研究の先行課題をはじめ,他の期間終了が間近の課題の完了を優先して従事することとしたこと,また,令和4(2022)年になって就業先と科研代表機関を探すこととなったため,本研究課題の進捗は,不本意ながら当初の予定より遅れている。 研究を進行できる状態で令和3年度当初の準備ができていたものの,上記のように所属先での課題管理について方法や状況を,就業も含めて長期的に確認し続ける必要性が生じていた。幸い,令和4年度直前に,神戸大学が科研課題の代表機関として一時的に救済してくださり,令和4年10月より会津大学で就業と科研代表機関としての受入を許可していただけた。この間,研究分担者(煙山千尋)と多くの研究協力者,および本研究課題に理解と期待を寄せる方々から,本研究課題に関する多くの声が寄せられたため,ささやかながら当該研究に関わる文献の検討,および関係するデータを引き続き再分析し,日本心理臨床学会での発表,査読付き論文として投稿するなどの機会に恵まれ,(B)指導者の依存から自立のプロセス,虐待発生・持続のメカニズムの解明に関わる内容を,5年後縦断調査から行うことができた。そして,幸いにも国際会議での招待講演の機会やBook Chapterとして掲載に向け査読いただける機会を得た(本報告書作成時の2023年5月1日に論文は採択された)。
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今後の研究の推進方策 |
令和5(2023)年度は(A)指導者の依存性とスポーツ虐待の様相に関する定量調査,(B)10年後調査によるデータ分析を通じた指導者の依存から自立のプロセス,虐待発生・持続のメカニズムの検討を進めていく。また,(C)依存に応じた指導者の支援方法の開発と介入についても可能なところから検討を行う。途中で得られる成果についても積極的に公表する。 (A)では,令和4年度までに再分析で明らかになった指導者の虐待の様相,令和5年度日本心理臨床学会で発表予定の「スポーツ才能教育における虐待の様相とアスリートの依存四類型」の内容,および関連する先行研究をもとに,才能教育下にある大学生アスリートを対象に,スポーツ虐待の様相を「大学生アスリート版家族ら依存性測定尺度(Family Relationship Dependency Scale for University Athletes : FRDSUA)」の類型ごとに調査する。そののちに,現役競技者時代に才能教育を経験した指導者を対象に,指導者調査として指導者の依存性と才能教育におけるスポーツ虐待の様相の関係を検討する。これらに基づき随時成果を公表していく。(B)では依存四類型の調査協力者の追跡調査を実施してデータを分析し,依存関係の変容,虐待行為の発生・持続メカニズムについて検討する。(C)についても,感染症の影響を考慮しながら,可能な範囲で検討する。 研究成果は,論文及び学会発表のかたちで公表する。今年度は日本心理臨床学会での発表を予定しているが,このほかにも積極的に成果を公表したい。また,本研究の成果を広く一般に公表できるよう,先行課題から引き継いで成果公表ウエブサイトでの成果掲載を予定している。 以上により,スポーツ才能教育における指導者の人格形成と適切な採用・育成に向け,実践的支援に寄与できるよう努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用分が生じた理由について,すでに「現在までの進捗状況」で記載の通り,令和3(2021)年度当初に,研究代表者の所属が年度末まで保証されないこと,それについての説明を求めることに長期にわたる時間と多大な労力を要したこと,令和4年度前半にかけて,就業と科研費課題の管理をできる代表機関の探索に時間を要したこと,現代表機関での新しい教育内容の準備に時間を要しているため,本研究課題について多くの繰越金が発生したことである。 次年度使用分は,令和3年度,令和4年度に計画していた(A)指導者の依存性とスポーツ虐待の様相に関する定量的調査の進行,および(B)定性的調査による10年後調査で指導者の依存から自立のプロセス,虐待発生・持続のメカニズムの検討のため,先行研究の検討のための文献収集や定量調査の実施のためのWeb調査実施,インタビュー調査のための旅費や分析のための費用に充てたい。また,結果を成果公表に結び付け,そのための費用にも充てることを考えている。
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備考 |
ウエブサイトは先行科研(18K03143)のプラットフォームを引き継いで使用
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