研究課題/領域番号 |
21K03125
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
饗庭 絵里子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40569761)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ピッチ知覚 / ピッチ不安定性強調現象 / 絶対音感 / 相対音感 / 音程 |
研究実績の概要 |
人間の聴覚系にとって,高次の認知的処理は欠かせない存在である.申請者が新たに発見したピッチ不安定性強調現象も,高次の情報処理過程による影響を考慮せずに説明することが不可能である.そこで本研究課題においては「人間のピッチ知覚は,周期情報を様々な形で補償する高次の情報処理過程の影響を受けているのではないか」という仮説に基づき,心理物理学・認知科学・生理学のアプローチを用いて,聴覚末梢系から知覚に至るまでの統合的なピッチ知覚のメカニズムを明らかにすることを目指す. ピッチ不安定性強調現象においては,定常的なピッチ感をもつ刺激音を複数回聴取した後,西洋音階より若干狭い周波数差を持つ音程だけ離れた音に移行した際に,刺激音の開始部分でピッチが揺らいで不安定になるような知覚を得る.これを複数回聴取するうちに不安定感はなくなる.一方で,西洋音階に基づく音程間で移行した場合には,ほとんど不安定性は感じられない.この現象が生じる原因として,脳が次にくる可能性のあるピッチを音程レベルで予測している可能性が考えられる.本知覚現象は純音や調波複合音よりも,開始部分で打弦,撥弦,擦弦によるノイズが生じる楽器音など,周期情報が不安定な部分をもつ音で生じやすいことからも,予測が関係している可能性が高いと言える. 今年度は,ピッチ不安定性強調現象がどのような刺激条件でより顕著に生じるのかを検証する聴取実験と,同現象が生じている場合と生じていない場合の刺激を聴取している際の脳波であるFFR(Frequency Following Response)計測実験の2つを実施した. その結果,ピッチ不安定性強調現象発生条件下でもFFRに含まれる周期情報に変化は見られず,PIEIが聴覚末梢系における処理過程で生じるものではないと示唆された.この結果は,ヒトのピッチ知覚に,高次の情報処理過程の影響が存在することを示唆する結果となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究においては,ピッチ不安定性強調現象がどのような刺激条件でより顕著に生じるのかを検証するため<<1>聴取実験と,能動的な予測を生じさせた状況下で行う<2>能動的聴取実験,同刺激を聴取している際の脳波である<3>FFR計測実験の3つを実施することを計画している.今年度の時点で,限られた条件下であるとはいえ,<1>および<3>を達成したことから,当初の計画以上に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,今年度の成果を踏まえ,ピッチ不安定性強調現象がどのような刺激条件でより顕著に生じるのかを検証するための追加の<1>聴取実験を行う.また,能動的な予測を生じさせた状況下で行う<2>能動的聴取実験についても実施する.加えて,これらの刺激を聴取している際の脳波である<3>FFR計測実験の3つを実施する. 特に<1>については,特に音の開始部分について,ピッチ推定が容易である刺激と困難である刺激を用いることで,予測が知覚に及ぼす影響を検証する.<3>については,より時間分解のを高めた計測手法を用いることや,解析対象をより高次の反応が観察できる範囲まで広げること,新たな解析手法を試みることによって,より詳細な検証を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
出張が生じなかったため,予算の使用状況に変更が生じたことが主な原因である.高額ではないため,次年度への影響はないと考えている.
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