表情や魅力など、ヒトの顔には多くの社会的情報が含まれており、それらの情報は他者との社会的関係の構築において重要な情報として利用されている。その一方で、そのような社会的文脈における顔の処理は、加齢や神経疾患などの脳の生物学的変化によって影響を受ける。本研究では、社会的文脈における顔の記憶とその脳内メカニズムが、加齢による脳の生物学的変化によってどのような影響を受けるのかについて、健常若年成人と健常高齢者を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)研究から解明することを目的とした。 前年度までに実施した研究では、顔の魅力の予測とアウトカムの差分によって算出される顔の魅力の予測誤差は腹側線条体において表象されており、その領域と海馬が相互作用することによって、顔の魅力の予測誤差による顔記憶への影響が担われていることが明らかにされた。この成果は、認知神経科学の分野で高く評価されている研究が多く掲載されているNeuroimage誌に発表された。当該年度の研究では、さらにこの神経メカニズムが加齢によってどのように変化するのかが検証され、腹側線条体における予測誤差の表象は加齢によって低下することや、腹側線条体と海馬の相互作用メカニズムは、正の方向の予測誤差が生じた場合においてのみ、高齢者において保存されていることが示された。この成果は、2023年度11月にワシントンDCで開催されたSociety for Neuroscience 2023や、つくばで開催されたSociety for Social Neuroscienceの国際学会において発表された。現在は、この成果を国際誌へ投稿するための論文を執筆中である。
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