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2021 年度 実施状況報告書

ハイパースキャニングによる社会脳の解明

研究課題

研究課題/領域番号 21K03140
研究機関京都大学

研究代表者

苧阪 直行  京都大学, 文学研究科, 名誉教授 (20113136)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード社会脳 / ハイパースキャニング / シンクロナイゼーション / 自己と他者
研究実績の概要

社会脳(social brain)は自己と他者を協力・共感で結び、豊かな社会性を生みだす。協
力し合うことから豊かな社会性が育まれる脳の働きを明らかにするのが本課題の目的である。人類の進化は自己と他者が協調して社会を営むことで可能となった。社会が複雑にな
るにつれて社会性を育む脳の前頭葉皮質の容積が著しく増加してきた(Brothers,1990)。人類の誕生時から、人々は社会環境の変化に適応して生き残るため協力してきたが、協力を導く共感の形成過程とその脳内機構は未解明のままである 。ト マ セ ロ ( 2009 ) は 著 書『Why we cooperate(ヒトはなぜ協力するのか)』で、協力の理由を、志向性の共有、つまり自他間で一つの目的の達成に向けて、意図を共有し心を接続し合うことにあると考えた。例えば、古代から祭祀における踊りや共に歌うことは人々に身体的共感や音声的同調のリズムの共有を生み、複数の人々に共感や協調、そして社会性の心を育んだといえる。しかし、こうした志向性の共有を生みだす時間的同期を調整する脳内基盤については未解明のままである。時間的同期が共感を高める絆となっていると考えれば、心身のタイミングの同期(シンクロナイゼーション)は協調を導く重要な研究の切り口となる可能性を秘めている。脳研究はこれまで個人の単独,、つまり一人称の脳研究に終始してきたが、Why we cooperateの視点からは自己に他者を加えた二人称の神経科学への発想の転換が必要である。
本研究では、この発想の転換を踏まえて、複数脳が協調して共通の目的を達成するプロセスを同時的に捉えるハイパースキャニング(hyperscanning)の方法用いて検討している。協調下での二者間の同時的脳活動の測定を行い、機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いた脳イメージング法で検討している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ヒトはなぜ協力するのか?その理由は、自他の志向性の共有、つまり一つの目的の達成に向けて、自己と他者が意図を共有し心を接続し合うことにある。祭祀における踊りや歌うことは人々に身体的共感や音声的同調のリズムの共有を生み、複数の人々に共感や協調、そして社会性の心を育んだと推定することができる。広く人文社会科学研究の形成の基礎となる研究課題といえる。しかし、こうした志向性の共有を生みだす時間的同期を調整する脳内基盤についてはよくわかっていないのが現状である。同期が共感を高める絆となっていると考えれば、心身のタイミングの同期は協調を導く重要な研究の切り口となる可能性がある。脳研究はこれまで個人ごとに、つまり一人称の脳研究に終始してきたが、ヒトはなぜ協力するのか?の視点からは二人称の神経科学、すなわち自他の相互協調(あるいは相互競合)の脳内メカニズムを探求する「人文社会科学の脳科学」への発想の転換が必要である。

今後の研究の推進方策

新型コロナの流行により、採択直後から被験者や実施機関の実験実施について合意を得ることが難しかったため、実施やデータ取得に少し遅れが出ているがおおむね順調に進展している。一部の実験データを用いて二者間の脳活動の協調・競合課題下での同期的活動を調べている。現在まで、二者間の前頭葉皮質とそれにサブネットワークとしてつながる頭頂や側頭のネットワークに同期的活動の傾向が認められることを確認している。2者間のダイナミックな相互作用の分析について、限られたデータで実施できる解析法を外部研究者とも相談して検討中である。コロナによる諸制約の解除の時期を想定しながらさらなる実験の実施計画を立てている。具体的には、協調課題に加えて聴覚課題に視覚課題を加え、対話しながら表情を読み取る対面課題と遮蔽壁により表情が読み取れない対面状況などで検討する予定である。新型コロナの終息後にむけて、さらなるデータの取得に向けて研究実施の計画を立てている。
ハイパースキャニング技術によって、複数脳間の協調の神経メカニズムを明らかにし、
人と人を結ぶ絆である協力行動や共感を科学的に探求する独自な『人文社会の脳科学』の創生を目指して検討を続ける予定である。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナの流行により、被験者を集めることが困難であり、実験実施に遅延が生じたためである。新型コロナの終息後、実験可能な状態に戻れば継続して実験を行い、より多くのデータを取得するように考えている。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Default mode networkとワーキングメモリネットワーク2021

    • 著者名/発表者名
      苧阪満里子・苧阪直行
    • 雑誌名

      脳神経内科

      巻: 94 ページ: 1-8

  • [雑誌論文] Does implicit self-reference effect occur by the instantaneous own-name?2021

    • 著者名/発表者名
      Yaoi, K.,Osaka, M.,& Osaka, N.
    • 雑誌名

      Frontiers in Psychology, section Cognitive Science

      巻: 12 ページ: 1-9

    • DOI

      10.3389/fpsyg.2021.709601

  • [雑誌論文] Capacity differences in working memory based on resting state brain networks.2021

    • 著者名/発表者名
      Osaka, M., Kaneda, M.,Azuma, M.,Yaoi, K., Shimokawa, T., & Osaka, N.
    • 雑誌名

      Scientific Report

      巻: 11 ページ: 1-11

    • DOI

      10.1038/s41598-021-98848-2

  • [図書] Brain, beauty & art: Essays bringing neuroaesthetics in focus.Pp.122-1262021

    • 著者名/発表者名
      Osaka, N. (In Chatterjee, A.,& Cardillo, E. (eds.))
    • 総ページ数
      257
    • 出版者
      Oxford University Press
    • ISBN
      9780197513620

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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