研究課題/領域番号 |
21K03147
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
森島 泰則 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (20365521)
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研究分担者 |
直井 望 国際基督教大学, 教養学部, 上級准教授 (20566400)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 第二言語処理 / 橋渡し推論 / 照応関係推論 / 認知資源配分 / ワーキングメモリ容量 |
研究実績の概要 |
本研究は、第二言語(以下L2)処理の認知的負荷が読解中の推論過程に及ぼす影響に関する研究である。L2処理による認知負荷によって、橋渡し推論など文章理解に必要な推論にも干渉があるのかという問いを、英語学習者を対象として検証することを目的としている。令和4年度は、令和3年度に続き、照応関係による橋渡し推論に関する課題に取り組んだ。照応関係の推論とは、「A sports journalist interviewed a runner from America before the race. In the end, the athlete crossed the finish line first.」という2文を繋がりのある文章として理解するためには,名詞照応詞「the athlete」が先行情報である「the runner」を指すことを推論する必要がある。この文章理解上必須とされる推論が、L2処理にかかる認知的負荷が大きくても成立するのかを検証することを目的とした。その際に、学習者のワーキングメモリ容量(WMC)を独立変数として加えた。 リーディングスパンテストをもとに英語学習者をWMCの高群と低群に分け、名詞照応詞の指示対象の活性化を比較した。指示対象文と実験文が連続する文章を用いた実験1では、WMCに関係なく、名詞照応詞を含む文の方が含まない文の場合よりもテスト語(指示対象語)への反応が速く、指示対象が活性化されていることが示唆された。指示対象文と実験文の間にフィラー文を含む文章を用いた実験2では、WMC高群では、名詞照応詞文を読解した後、テスト語への反応時間が遅くなったが、WMC低群では、そのような差は観察されなかった。この結果は予測に反するものであったが、WMCに比較的余裕のある学習者は、テスト語が提示されることによって付加的に大局的な照応推論を実行した可能性があると考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍のもと、依然として実験室での対面実験ができないという困難な状況の中で遂行せざるを得ないのが現状である。その中で、最大限の努力を重ね、オンライン実験を活用することにより、研究課題の解明につながる実証研究を行い、一定の成果を導き出せたが、オンライン実験には、実験参加者の確保から始まり、実験環境や手順の統制など多くの課題や制約があるため、計画した実験が実施できなかったり、参加者数確保に手間と時間が多く費やされたりという困難が伴う。大学が対面授業に移行しても、ここ数年のオンライン中心の生活に慣れた学生たちは、実験室での実験参加に消極的になった傾向が認められ、これも実験的研究を困難なものにする一因と言える。 一方、脳機能計測を行う実験は、対面で行う必要があり、そのような実験は実施できていない。
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今後の研究の推進方策 |
大学の授業が対面形式に戻り、それに伴って、大学全体の環境がコロナ禍以前に戻りつつある。この傾向が続けば、実験室での実証研究も以前よりはしやすくなると期待している。それを前提に、これまでできなかった視線計測などの装置を活用した実験研究を計画し、進める予定である。また、利用可能な限り、これまでの継続性も考慮して、オンライン実験も利用して、これまでの実験結果との比較検討も行なって行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験室での実験が実施できず、実験用コンピュータやその他の実験装置の購入を差し控えたため、繰越額が生じた。コロナ対応策が変更され、対面形式の授業をはじめ、コロナ禍以前の状況に戻りつつあるため、実験室実験の再開を前提として、前記のコンピュータや実験装置の購入、実験参加者や実験補助者への謝金など実験研究実施に係る経費に使用する。また、コロナ禍でオンライン開催となっていた学会・研究会等も対面開催が増加しているため、それらへの参加のための旅費・参加費への支出も見込まれる。
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