研究実績の概要 |
2021年度は主に次の2点について研究を進めた。 1)心理学領域の質問紙に使用される否定と二重否定についての実態調査 質問紙調査では否定や二重否定は避けることが望ましいとされているが, 実際には質問項目や回答選択肢に否定表現が含まれることは多い。質問項目と選択肢双方に否定が含まれると二重否定となる場合もある。一方で, 文章表現の自由度, 逆転項目による回答の一貫性の検証, 社会的望ましさによる回答の偏りの抑制等, 否定表現の効用も考えられる。これまで質問紙における否定表現や利用実態の研究はほとんどない。そこで, 心理学で広く利用される『心理測定尺度集I~Ⅵ』を対象に, 文尾に否定辞「ない」を用いた否定や二重否定が質問項目や回答選択肢にどの程度利用されているのかについて、文献調査を行った。結果, 前提条件を満たす330尺度のうち約6割の尺度に否定を含む質問項目があり, 1尺度あたりの否定を含む質問項目率は約10.5%(SD=12.9%)だった。中には5割以上の質問項目での否定の使用や, 二重否定が使用されている尺度もあった。否定を含む回答選択肢は全体の約75%だった。一般的に利用される心理尺度でも否定や二重否定の利用があることが明らかになった。この点については、学会発表と論文発表を行った。 2)オンライン実験課題の準備 コロナ禍のため、状況に応じてオンラインでも対応できる実験課題に切り替えることにし、準備を進めている。オンライン実験を進めるにあたり、文章理解の最も簡潔な課題としてClark & Chase(1972)の絵と文章の照合課題に関する真偽判断のオンライン予備実験を若者を対象に行った。分析結果、彼らのモデルで想定されているように認知プロセスが加算的に行われている可能性が示唆された。
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