研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,正標数の代数閉体上に定義される射影多様体のうち,古典的な研究対象である非特異 del Pezzo 曲面について,反標準束などの偏極に関する直線束の累次フロベニウス直像の構造,とくに,その直既約な直和因子(Frobenius summand)を分類し,そのフロベニウス直像における重複度を計算することである. 本年度は,とくに構造層の累次直像と自己双対的な累次直像の構造が解明されている 5次 del Pezzo 曲面 X について,反標準束 L=-K_X の n重テンソル積 L^n=O_X(-nK_X) (n≧0)の累次フロベニウス直像 (F^e)_*(L^n) の直既約ベクトル束への直和因子として現れる直既約ベクトル束の分類を試みた. 自己双対的なフロベニウス直像の解析においては,非特異な 5次 del Pezzo 曲面 X をトーリック的な 2枚の Zariski 開集合 U, V で被覆し,フロベニウス直像の U, V への制限が直線束に分解することを用いて,そのベクトル束としての貼り合せ行列を基本変形することにより,直和分解の様子を調べる方法を用いたが,この方法では標数 p=2, 3 における結果は得られたものの,p≧5 においては計算が複雑となり,累次フロベニウス直像の構造を決定するに至っていない. 上記に述べた従来の方法の代替手段として,フロベニウス直像 F の直和因子として現れると予想される直既約ベクトル束を予めリストアップしておき,リストにある個々のベクトル束 V(安定と仮定)について,自然な "pairing" 写像 Hom(V,F)×Hom(F,V)→Hom(V,V)=k を考察することにより,V の F における直和因子としての重複度を込めて計算する方法を考案し,これについて現在計算を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
上述した従来の方法の代替手段として,フロベニウス直像 F=(F^e)_*(L^n) の直和因子として現れると予想される個々の直既約ベクトル束 V について,自然な "pairing" 写像Hom(V,F)×Hom(F,V)→Hom(V,V)=k の階数などを具体的に計算することにより,V のフロベニウス直像における直和因子としての重複度を込めて求める方針について検討する.
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