研究課題/領域番号 |
21K03168
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
津村 博文 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (20310419)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 代数学 / 整数論 / 多重ゼータ値 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究成果としては、まず第1に、2021年に出版された松本耕二氏(名古屋大学教授)および苗代暁彦氏との共著論文における結果を一部補正し、さらにより明示的な結果を導いた結果を松本氏との共著としてまとめた論文が Kodai Journal of Mathematics に出版されたことである。とくに数論的関数を分子の載せるような二重Dirichlet級数の不確定特異点におけるある種の留数の間の相互法則を発見し、帰納的にその値を計算する手法を確立したことが興味深い点であると言える。第2には、本研究課題と深く関係するルート系のゼータ関数に関して、小森靖氏(立教大学教授)および上記の松本氏との共著として執筆した著書:The Theory of Zeta-Functions of Root Systems が Springer社より間もなく出版されることである。これは以前の研究課題から継続的に取り組んでいるルート系のゼータ関数の理論に関して、様々な側面からまとめたもので、この分野ではまだ類書がないために、この分野における研究者にとっては、有用な研究書となると考えられる。この研究成果は科研費のサポートによって生み出された面が大きく、深く感謝している。第3のこととして、金子昌信氏(九州大学教授)との共同研究で、レベル2および4の多重L値に関する研究が進展したことで、その結果をまとめた論文が Tohoku Mathamatical Journal に出版予定である。この研究は、一般のレベルの多重L値に関する結果に一般化できる見込みが立っており、次年度以降の研究につながると考えられる。これにより、これまであまり研究が進んでいなかった多重L値の張る空間の次元予想などにもつながることが期待され、興味深いものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた金子昌信氏との共同研究は順調に進んでいる。共同研究を計画している F. Chapoton氏は、金子氏と研究代表者が定義したレベル2の多重T値に関して、その1-パラメータ版を定義して、一般化に成功した。協力して良い方向への進展がみられるため、この方向の進捗状況は順調であると言える。ルート系のゼータ関数をテーマとする研究も、上述した著書が出版間近であり、順調に進展していると考えられる。研究計画の中の多重T値の張る空間の次元予想に関しては、まだ明示的なアプローチが見えてこない点から、やや停滞していると言わざるを得ない。まだ見つかっていない関係式族なども、その導出が期待されているので、継続的に考察を重ねていく。総合的にみると、本研究課題全体としての進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
レベル2の多重ゼータ値の研究はかなり明確になってきたため、さらに高いレベルの多重L値の研究を進めていきたい。最近では log-sin 関数などからのアプローチも発見されて、明示的な道筋も見えつつある。さらにレベルの概念に留まらず、それを含むような多重ポリログ型の級数への拡張が可能とみられるため、その方向への進展を目指す。実際に、古典的によく知られた dilog関数の5項関係式を含むような2変数の多重ポリログの間の関係式も見つかっており、専門家の意見も聞きながら、金子氏と共に研究を継続中である。とくにレベル1,2,3,4の場合に知られている二重ゼータ値・L値の重み付き和公式を、2変数の二重ポリログの重み付き和公式に広げることがわかり、大分熊本整数論研究集会でその一部を発表した。さらに結果を整理して、関連する研究集会などで発表していくことを目指す。またルート系のゼータ関数の研究に関しては、近年の研究で、いわゆるOhno関数、シューア多重ゼータ関数などとの関係も調べられており、その応用範囲は広がりつつある。とくに多重ゼータ値の関係式を連続補間するOhno関数は、ルート系のゼータ関数の有限和として表されることが知られており、この方向での今後の進展が非常に興味深い。大野泰生氏(東北大学教授)などとも協力して、Ohno関数の未知の性質などを考察していきたいと考えている。その他、近年では、ポリベルヌーイ数の一般化がいろいろと構成されているが、本来の定義の自然な一般化とみられるような構成法を検討していきたい。そのためには自然なArakawa-Kaneko型ゼータ関数の構成が重要であり、その考察がまず最初のターゲットとなると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際研究集会のための海外出張や国内の研究集会などへの出張が中止、もしくはオンライン開催となったため費用負担が無くなるなど、予定していた研究費の支出が不可能となった。2023年度以降は徐々に国際研究集会なども対面で開催されるケースが増えると思われるため、現時点での未支出分を充当していく予定である。また海外からの研究者の招聘なども、状況を見ながら視野に入れていく。
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