研究課題/領域番号 |
21K03171
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
平田 典子 (河野典子) 日本大学, 理工学部, 特任教授 (90215195)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 多重対数 / パデ近似 / ディオファントス近似 / 無理数 / 周期積分 / 周期予想 / 超幾何級数 / リーマンゼータ関数 |
研究実績の概要 |
周期とは,代数多様体の代数的ドラームコホモロジー類の積分で表される対象であり,代数的数の周期写像の逆像の元,つまり逆周期写像の代数的数における値も例としてあげられる.典型的な周期である円周率は代数的数を逆周期写像に相当する対数関数で引き戻した逆像の元から得られる数であるが,積分表示も持つものである.円周率の性質が良く分かる理由は,この周期が積分表示と級数表示の両方を持つ関数の値という事実のおかげと言えよう.研究代表者はこの基本的な事実に着目し,周期の典型的な例であり,しかも準同型性が成立しない多重対数関数に対しての研究を進めた.令和3年度にはSinnou David(フランス ソルボンヌ大学), 川島誠(日本大学生産工学部)らと共に,多重対数とその一般化であるLerch関数,一般超幾何関数などの値が任意次数の代数体上で一次独立になるための規準をパデ近似を用いて与えることができた.この判定基準は体に依存する.多重対数に関する以前の結果を一般化するものであり,shift部分が異なる場合やcontiguousな一般超幾何級数も全て含む一般の一次独立性の判定基準を証明することができた.国際的な注目も引き,ドイツOberwolfach数学研究所における4年に一度程度のディオファントス近似のクローズドワークショップに,唯一の日本人として招聘された.G.V.Chudnovsky, D.V.Chudnovsky 兄弟および,Nikisinらの結果を含み,異なる代数的数での値に対しても値が一次独立になるための十分条件の記述に成功,先行研究で得られなかった一連の結果を従えた.多重対数が無理数になる新規な例の構成も可能になった.またLerch 関数において係数がcyclic である場合に対しても拡張することができた.これはリーマンゼータ関数やディリクレのL関数の値の数論的性質の考究に役に立つ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は多重対数に限って考察していたが,異なるshiftのLerch関数や一般超幾何関数などの関数の値が任意次数の代数体上で一次独立になるための規準まで拡張することができた.これはこの分野における期待を超えた進展であり,科学研究費補助金のおかげであって,この場を借りてお礼申し上げる.この成果は令和4年4月のドイツOberwolfach数学研究所でのクローズドワークショップ・令和4年5月Leuca2022という国際研究集会への招聘につながる国際的な注目も引いた.特に証明における最も肝要な部分であるHermite型のWronskian行列式非零性の達成が最大の成功要因であり,Sinnou David(フランス ソルボンヌ大学教授), 川島誠(日本大学生産工学部助教)との国際共著ができたことも理由の一つである.この行列式非零性は,無理数性や超越性という数の性質を示すために現在の方法では必要なものであるが,その証明は一般に困難である.HermiteやPadeといったパデ近似や超越数の基礎的な手法の創始者のアイデアを丁寧に学び,その考察をパデ近似に対する抽象的な言語による扱いに結びつけたことが良い見通しを与えることにつながった.
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今後の研究の推進方策 |
JSPS外国人特別研究員(欧米短期)として採用いただいたAnthony Poels(PE20746)に,令和3年10月の入国時よりこの研究に参画してもらった.このAnthony Poelsの参画により思いがけない優れた進展を得ることができたため,単数方程式への応用などの想定外であった方向に向けて令和4年度の研究をさらに進める計画である.この場を借りてJSPS外国人特別研究員(欧米短期)の採用へのお礼を申し上げる次第である.したがって令和4年度もAnthony PoelsのJSPS外国人特別研究員(一般)としての申請を,ホストを変更し新しいテーマに拡張しておこなうなど,さらに発展した形での共同研究が対面にて継続実施できる方策を取るとともに,超幾何級数の特殊な場合である冪乗関数に限った場合の新たな考察と精密計算を,Anthony Poels(日本大学理工学部理工学研究所研究員)および川島誠(日本大学生産工学部助教)と共に対面3名でまずは進める予定である.またリーマンゼータ関数の奇数における値の数論的性質,例えばこれらの値が張る空間の有理数体上の次元の下界を精密化するという重要な課題を,共に同じ3名にて考える予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の本務先において,感染症予防の観点から国内外の出張が制限され,外国から招聘を得た研究集会への参加を諦めたり,zoomによる遠隔での参加に変更したりしたため,旅費として計上していた金額の余剰が発生した.しかしながら,JSPS特別研究員(欧米短期)として2021年10月に来日することができたAnthony Poelsとの共同研究を開始したことで,研究代表者の国際共同研究が可能になったこと,また研究の中間成果発表を令和4年5月のイタリアでの研究集会講演として次年度に延期できたことにより,令和4年度使用計画として算入するように変更した.これらによって,課題の研究遂行には支障をきたさないようにすることが可能になった.
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