研究課題/領域番号 |
21K03185
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 修司 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 特任准教授 (20635370)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 多重ゼータ値 / 多重ポリログ関数 / 超幾何関数 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,多重ゼータ値および多重ポリログ関数と,超幾何関数との関係について,双方向的に,かつ一般的な視点のもとで深く理解することにある.このような関係を考える出発点の一つが,多重ポリログの和の母関数と超幾何関数を結びつける大野・ザギエ型公式であった.本年度は,この大野・ザギエ型公式について,上昇ベキの展開と式変形に基づく新証明を発見した.この証明はオリジナルの大野・ザギエ公式だけでなく,いくつかのパラメータを含む(既知の)一般化にも適用することができる.またこの証明方法は,従来の微分方程式を用いる方法と異なり,直接的に等式をつないでいく議論であるため,変形を逆向きにたどることができる.これにより,適当な一般超幾何関数から出発して逆の変形をたどることでどのような母関数が得られるか,といった考察が可能になった. 本年度のもう一つの成果は,Julian Rosen,竹山美宏,田坂浩二各氏との共著による,有限代数的数に関する研究である.この共著論文では,Rosenによる有限代数的数の定式化を見直すとともに,ある種の整構造へ精密化し,さらに代数体における素数の分解法則への応用を与えた.この研究成果そのものは超幾何関数と直接の関係を持たないが,その具体例や関連研究を模索する中で以下のような観察を得た:適当なパラメータを持つ一般超幾何級数をp-1次の項までで打ち切ると,モジュラー形式のp次の係数との間に合同関係式を持つといった興味深い性質を満たす環Aの元が得られる場合がある.このような現象の例は重さ2以上の場合に知られていたが,上述の共著論文の結果からは重さ1の例を得ることができ,対応する一般超幾何級数は1F0である.これはまだ観察の段階であるが,打ち切り超幾何級数の意味付けに関して新しい視点を示唆するものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における着想の原点は,大野・ザギエ型公式に見られる「多重ポリログから作られた母関数が超幾何関数と結びつく」という現象と,前年度に掲載受理された「超幾何関数の値から作られた母関数が多重ポリログと結びつく」という現象の二つであった.このうち前者に関しては,元になった大野・ザギエ論文において「多重ポリログから作られた母関数が満たす微分方程式を書き下し,その解が超幾何関数で表されることを示す」という証明が与えられ,その後の様々な類似・一般化においてもこの証明法が踏襲されることが常であった.このような中で,より直接的な新証明が得られたことは,今後の研究方針に新しい選択肢を与えるという意味で重要な進展であると考えられる.また,有限代数的数の考察を通して打ち切り超幾何級数に対する視野が広がったことの意味も大きい.これらのことを踏まえて,現在までの研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
オリジナルの大野・ザギエ公式の応用において,超幾何関数2F1の値をガンマ関数で表すガウスの公式が重要な役割を果たしていた.後者に類似する公式は3F2,4F3などの一般超幾何関数に対していくつか知られているが,これらの公式を多重ゼータ値に応用する研究はあまり得られていない(ただし最近の川村・前阪・小野の研究では5F4に対するDougallの公式が応用されている).その理由の一つは,これらの公式を適用できる形の一般超幾何関数を導出するためにどのような多重ゼータ値の和を考えればよいか,という点が明らかでなかったことにあるように思われる.この点について,大野・ザギエ型公式の新証明法を適用するアプローチを試みたい.また従来の微分方程式に基づくアプローチでの一般化・多変数化の模索も継続する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用となった額の大部分は前年度の未使用分(これは新型コロナウイルス感染症の影響で,予定の大部分を占める出張旅費の使用が制限されたため)であり,本年度の支出は概ね予定通りであった.次年度はさらに積極的な研究集会・セミナー等への参加,および直接対面での研究討論などを計画しており,そのための旅費として本研究費を活用する.
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