研究実績の概要 |
有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値において, 現在最も重要な研究目標とされている金子・Zagier 予想に関して進展が得られた. これは多重ゼータ値を定義する級数を有限で打ち切って有限体上の数列とみなす有限多重ゼータ値と, 通常の多重ゼータ値のある種の対称化である対称多重ゼータ値の間には一対一対応があるという予想である. この予想に対し統一多重ゼータ関数という新しい対象を導入し, これらのゼータ値がある意味で同一の対象であることを示した. 統一多重ゼータ関数とは通常の多重ゼータ関数が持つ複素変数の他, 体の標数を滑らかに補間する2つの複素変数を添加したものであり, 特殊化することによって有限多重ゼータ値, 対称多重ゼータ値, 通常の多重ゼータ値, 及び更なる拡張である有限多重ゼータ値の p 進化, 対称多重ゼータ値の t 進化を全て得ることができる. この研究は「なぜ同型が存在するか」という本質的な問いに対して「1つの対象の異なる見方だから」という方向性の解答を提案するものである. これを持って直ちに予想が解決するわけではないが, これまで独立に扱われていた対象が極めて自然に1つに統合されたことにより今後の研究に大きな影響を与えるものと考えられる. この成果の一つとして, 負の領域における金子・Zagier 予想 (1対1対応部分) を肯定的に解決した. 現在さらにモーデルトーンハイム型多重ゼータ値やルート系に付随する有限多重ゼータ値に対して同様な現象が起こることを確認し, その証明を考察中である.
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