研究実績の概要 |
パリ大学の陳氏と共同研究を進め、アデリック曲線上でのヒルベルト・サミュエル公式の証明が完成したことを受け、応用面の研究に取り組んだ。その成果として、当分布定理、ボゴモロフ予想、力学系における基本定理の拡張という結果を得た。 具体的には以下の通りである。体 K は加算濃度を持つ体であるとし、その適正なアデリック構造 S = (K, (Ω,A,ν),ψ) を固定する。X は K 上の幾何学的に既約なd次元の射影代数多様体とし、(L, φ)は X 上の L が豊富であるアデリックな直線束とする。X 上に K 上有理的である生成的な点の列があるとし、その点の高さが、X の高さに収束すると仮定する。このとき、大雑把に言って、点から定まるディラック型の測度が X と L から定まる測度に弱収束するというのが当分布定理である。これは、代数体の場合、1990 年代後半に知られていた定理であるが、今回は、アデリック構造とそれに関するヒルベルト・サミュエル公式を用いることで、加算濃度を持つ体というかなり広い体上で成り立つことの証明が完成した。これの帰結として、その体上でのボゴモロフ予想が導かれることに成功した。さらに、従来、算術的力学系は代数体上での研究が中心であったが、アデリック曲線上での高さ関数の理論を用いることで、加算濃度を持つ体上でも同様のことができることが判明した。その一つとして、算術的力学系における前周期的点の集合の稠密性と高さ関数の関係に関する基本定理が、加算濃度を持つ体上でも成立することがわかった。 以上のように、研究は驚くほど順調に進んでいるのだが、書き上げた論文が186ページもあり、出版にいたるまでは、まだ数年かかると予測され、その点が成果の公表という観点から懸念材料である。
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