研究課題/領域番号 |
21K03214
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮岡 礼子 東北大学, 理学研究科, 名誉教授 (70108182)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 等径超曲面 / ガウス写像 / フレア理論 / ラグランジュ部分多様体 / 極小曲面 / 除外値問題 |
研究実績の概要 |
可積分幾何に関しては,球面S^{n+1}内の等径超曲面Nのガウス像Lの位相の解析を目指し,その前段階として,N自身のコホモロジーを従来とは異なる方法で計算した.これはNを焦部分多様体F上の球面束として捉え,Thom-Gysin完全列を適用することにより成功した.従来はNがS^{n+1}を二つの円板束に分解することを用いるMunznerによる計算があるが,新しい方法では外部空間S^{n+1}の性質を用いないので,より多くの空間における等径超曲面の位相の計算にも適用可能である.また,ガウス像Lの位相の計算という本来の目的にも適用でき,部分的に成功している.LはNを有限巡回群Z_gで割った構造をもち,gが素数であれば,ある程度計算ができるが,ここではg=4,6の計算を要し,幾何学的な構造を反映した計算が必要となる.特にg=4に現れるClifford代数の表現に随伴する等径超曲面は非等質な例を無限に含み,幾何学的にも大変興味深い対象である.この場合の構造をかなりの段階まで明らかにすることができた.特別な場合はLのコホモロジーという最終目的まで計算ができ,さらにその先の目的であるFloerコホモロジーの計算に繋げる可能性を得ている.これらの研究は大阪市大の大仁田義裕教授,茨城大の入江博准教授とともに,2週に一度のZoom検討会で継続して議論している. 極小曲面に関する課題として,2次元戸田方程式の周期解を用いた複素射影空間におけるラグランジュ極小曲面の研究,および代数的極小曲面のガウス写像の除外値問題がある.前者については宇都宮大の國川慶太氏と議論しているが目覚ましい進展はまだない.後者については名大の小林亮一教授と研究しているがNevanlinna理論を円板上で構築するという非常に難解な議論になっているので,普遍被覆に上げない議論についても検討中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いずれの課題も当科研費以前の科研費から継続して研究している.短期間で片付く簡単な課題ではないので,一歩ずつでも進展すればという意味ではおおむね順調である. 等径超曲面のガウス像のコホモロジーについては,単連結でない場合にさまざまなスペクトル系列を用いた議論を試しているが,問題の本質的困難性が明らかになってきた.単連結でない場合の扱いへの挑戦は本課題の肝と言える. ラグランジュ極小曲面論は可積分系理論と結びつき,ティツァイカ方程式などが現れ興味深い.他方,複素射影空間内の複素曲線論との対比という点でラグランジュ極小曲面の独自性をどこに見るかが問題である.ミラー対称性の最も単純な場合であるが,高次元の場合に比べると単純すぎる.曲面論の立場から具体的に調べている. ガウス写像の除外値問題については,最近極小曲面の書籍を執筆したことによりさまざまな古典的議論の復習を行って得るところがあった.局所的には極小グラフとして扱えると同時に,Weierstrass-Enneper表現との対応にも見るべきものがある.他方,円板上のNevanlinna理論の構築については,トランセンデンタルな議論があちこちに出現し,制御が困難である.古典論と現代幾何学の両方から攻める必要がある.
|
今後の研究の推進方策 |
等径超曲面の研究については,現在2週に一度のZoom検討会を行っているが,2022年3月に久しぶりの対面検討会を行い,やはり対面での議論の必要性を実感した.今後は上記研究のどれも,対面で共同研究する機会が持てると良いと考えている. 方策としては,Floer(コ)ホモロジー理論については入江氏のスペクトル系列の利用などのアイディア,等質なものの扱いについては大仁田氏のリー群論の知識を活かし行っている.今までに得た知見を礎に,残る問題に継続して取り組み,事情が許せば,2016年に共著で結果を出した北京の清華大学のHui Ma教授との国際共同研究につなげる. またMa教授はラグランジュ極小曲面についても深い研究を行っているので,機会を見て議論したい. ガウス写像の除外値問題については,小林氏のまとめている長大な5編の論文を形にしていくことを目指している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
covid-19の蔓延により,中国桂林で開催予定であった第6回中国-日本幾何学研究集会のハイブリッド開催への切り替え,国内共同研究のZoomへの切り替えで旅費使用ができなかった.会議開催に伴う謝金の使用も不要となった.
|