研究課題/領域番号 |
21K03221
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
山田 裕一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30303019)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 4次元多様体 / 3次元多様体 / デーン手術 / 枠付き絡み目 / Kirby計算 / divide knot / レンズ空間 / 特異点 |
研究実績の概要 |
双曲的な結び目からのデーン手術で“例外的に”双曲的でない3次元多様体が生じる現象は「例外的手術」と呼ばれる低次元多様体論の課題の1つである。筆者はこの現象に基づいて特殊な4次元多様体を構成し、分析することを研究目標としている。令和5年度は本研究の3年目である。コロナ対策が終了して研究集会の多くが対面式で実施されるようになった1年間であった。多くの研究集会に参加して講演を聞き、会場に集まった研究者の間で課題や情報、アイデアを議論することができた。年度前半は時間的に余裕があり研究が進展したが、後半は昨年度と同様に時間不足があった。以下、令和5年度の研究活動実績を具体的に述べる:1. Non-orderded Morse な divide knot に沿うデーン手術の研究で1つの結果を得た。2. 数学会から依頼を受けたある執筆活動の仕上げをした。3. 対面式で開催された多くの集会に現地参加し情報交換を行なった。具体的には2回(秋と春)の数学会と「トポロジー・シンポジウム」、研究集会「拡大KOOKセミナー」「4次元トポロジー」「微分トポロジー'24」。世話人を務めたこともある国際集会「The 19th East Asian Conference on Geometric Topology」(今回は京大数理研)にも部分参加した。5. 丹下基生氏の運営するハンドルセミナー(多様体の「ハンドル分解」を基にした名称)にすべて参加した。 秋の数学会の際に、過去の共同研究者に本研究課題に関連するある1つの発見を伝えたところ、そこから派生するいくつかの研究課題を見つけることができ、今後につながる計画に発展した。コロナ前の研究体制が戻ってきた。より一層気持ちを切り換えて研究活動に取り組みたい。滞っている論文執筆なども進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は2021年度に開始された。3年目の研究活動を、2年目に続き「やや遅れている」と自己評価する。 これは研究成果の公表の観点から考えての自己評価である。研究自体は令和5年度の間に内容的な進展があった。状況として、多くの研究集会が対面式で再開されたことの効果が大きい。例えば数学会(秋:東北大)での、本研究と近い内容の特別講演に刺激を受けての研究仲間との研究打合せがとても貴重であった。その機会を端緒として、令和5年度の後半に翌年度の研究計画が良い方に展開した。当面は、以下の課題にバランスよく取り組みたい。1. Divide曲線のうちでやや扱いが困難な non-ordered Morse 型の曲線の表す結び目に沿うデーン手術に関する研究成果をまとめる。2. 客員研究員との共同研究を開始する。本研究が発端となっただけでなく、本研究計画に密接な関わりがある。3. レンズ空間手術の結び目の divide 表示の課題に計算機を用いた新展開(令和4年度の成果)について、方針転換に取り組みたい。4. 過去の研究「例外的手術の分布」(2018)について、対象を広げて比較を検討する課題がある。5. 海外の研究動向として CP2 に埋め込まれるレンズ空間に関する研究に進展があった。これらの他にも研究課題がいくつかある。2022年度のあたりから良書の出版が相次ぎ、そのいくつかを購入している。しばらく研究分野の一層の活性化が期待される。自分自身もその一翼となれるようそれらを参考にしたい。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で研究の内容は変更する必要はないと考えている。対面式で開催される研究集会になるべく参加し、講演を聴いて情報収集したり、会場に集まった研究仲間と課題やアイデアを議論したりすることで研究を推進したい。研究活動がコロナ前の状況に戻ることを率直に歓迎するが、コロナの機会に始まった新しい研究活動方法(オンラインでのセミナーなど)の利点を有効活用できるよう引き続き努力したい。特に、質疑応答の際に図を共有する技術などを身につけたい。筆者は在宅勤務の研究活動に慣れることができず、大きな反省点を抱えている。もっと前から計算機やネット環境の整備に関心をもつことが必要であり、日常的・継続的な情報収集、設備の更新や管理作業、セキュリティ確認などが必要であった。 令和5年度中の研究活動が実を結び、令和6年度前半には本務先で客員研究員を迎えることになった。本研究計画とも密接な関わりがある。この期間はぜひ研究そのものに集中したい。執筆や講演などの研究活動はそれらの成果ともつながり、追って自然に追加されることになると期待したい。近年は時間的な余裕は少ないが、環境と意欲について新年度(令和6年度)は恵まれた期間になると感じている。 コロナ期間を経て研究以外の仕事がやや変容し疲弊しているが、研究が圧迫されないようあらためて心して取り組みたい。令和4年度からは教育活動にも重点を置いてきた(学生の指導や非常勤講師としての教育)が、それらの負担としての側面は一段落しており、本研究の後半期間の推進は可能と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費を次年度に繰り越してはいるが、昨年度(令和4年度から5年度への繰越)に比べて額は半分以下で小さい。状況は、本研究を開始した令和3年度からの繰越を再繰越した累積が減ったうえで残った、という経緯である。前年(令和4年度)はコロナの影響が残っていたことに加えて、突然の学生指導や大学院科目の非常勤講師の開始など研究以外の事情が重なって研究時間に余裕がなかったが、令和5年度にはその両方の事情が(負担の観点から)緩和した。多くの研究集会で対面式が復活して、数学において研究者どうしの情報交換の価値がとても大きいことをあらためて認識している。残念なことに筆者は海外での研究活動を再開していない。これから多くの研究集会が対面式で再開され、そのいくつかに参加できることを期待している。令和6年度は本研究の研究期間の後半なので、研究成果の公表に努力したい。
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