研究課題/領域番号 |
21K03236
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
長友 康行 明治大学, 理工学部, 専任教授 (10266075)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | モジュライ空間 / ベクトル束 / 接続 / 正則写像 / 表現論 / グラスマン多様体 |
研究実績の概要 |
今年度は、グラスマン多様体への調和写像に関する「高橋の定理の一般化」を基礎とした調和写像の理論を適用することにより、複素射影空間から複素ベクトル空間内の2次元部分空間のなす複素グラスマン多様体への同変正則写像に関するモジュライ空間を求めることに成功し、1編の論文を作成した。 定義域が複素射影直線の場合には、高橋の定理の一般化から、問題を2次特殊ユニタリー群の表現論に帰着させることができた。定義域が一般の複素射影空間の場合でも、同様の過程を経て、一般次数の特殊ユニタリー群の表現論が問題となる。しかし、前者の場合に必要とされた具体的な計算が全て遂行できるとは限らず、モジュライ空間の具体的実現には困難が伴う。しかし、この問題を回避する方法はすでに以前の研究において得られていた。すなわち、複素射影空間への正則等長写像に関する「Calabiの剛性定理」を、「高橋の定理の一般化」を基礎とした「do Carmo-Wallach理論の一般化」を利用することにより、複素グラスマン多様体への正則写像へ一般化した結果である。したがって、写像を構成できれば、「同変正則写像の一意性」の問題は解決できたことになる。また、古賀ー高橋により、複素射影空間から複素ベクトル空間内の2次元部分空間のなす複素グラスマン多様体への同変正則写像の例が得られていたので、この結果を利用すれば「同変正則写像の存在」の問題も解決できる。もちろんそれ以外の例もあるのだが、これらは「標準的な同変正則写像」として定義される写像に一致する(「標準的写像」の定義にも「高橋の定理の一般化」が関係する。)このようにして、「同変正則写像」と「正の曲率を持つ不変接続」のモジュライ空間が一致することが示された。 この研究が示すのは、ベクトル束の微分幾何学がグラスマン多様体への写像の微分幾何学には欠かせないということだと思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前の研究により、リーマン多様体からグラスマン多様体への調和写像に関する微分幾何学におけるベクトル束の幾何学の果たす役割の重要性を、高橋恒郎の定理の一般化に始まり、do Carmo-Wallach理論の一般化により示せたと自負している。なぜならば一般論の構築だけではなく、これらの理論の具体的な例への応用も多数得られたからである。高橋の定理やdo Carmo-Wallach理論が半世紀もの長期間にわたって一般化されなかったことを考慮すると、一般的な結果はもとより、個々の具体的な研究においても成果を出すのは困難であると当初は予想していたが、ベクトル束の幾何学を加味することにより、この状況を打破できたことが本研究につながっている。 また、Calabiの剛性定理のベクトル束とその接続に注目した一般化もdo Carmo-Wallach理論の一般化により達成できたが、この応用例を具体的に提示できたことが本研究の進展を示しているといえる。剛性定理の一般化の定式化においては、従来の観点からはそれが「一般化」と言えるのかどうかも理解されるのに時間がかかるであろうが、上記した応用例はここで提示した観点が本質的であることを示していると言える。ここでも接ベクトル束以外のベクトル束と接続を理論に組み入れることが重要となっている。 また、先行研究においては、定義域となるリーマン多様体が実2次元である場合の結果がほとんどであったが、これは定義域が実2次元のときにだけ通用する理論が存在したためであった。しかし本研究課題で得られた理論は、定義域の次元にとらわれることなく展開可能なため、次元の高い複素射影空間から複素グラスマン多様体への同変正則等長写像の分類を得ることが出来たという事実も本研究課題の進展を示していると言える。
また、この成果を順次論文として発表していることも、順調な進展の理由となるであろう。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も、引き続き、高橋恒郎の定理の一般化による調和写像の研究を推進する予定である。とくに、正則写像に関しては、Calabiの剛性定理の一般化も得られたことから、モジュライ問題に関する「一意性」の問題は解決できたので、存在問題を考察することが今後の課題である。そのためにまず不変接続に注視することを続けていきたい。複素射影空間への正則等長写像の優れた研究が多数存在し、発表論文数が多い事実も、本研究課題の観点からは、考察すべき接続がHermitian-Yang-Mills接続に限定されることに起因していると言うことができる。これに対して、すでに得られた結果からは、複素グラスマン多様体への正則写像の研究では、Hermitian-Yang-Mills接続の複素ゲージ群の作用から得られる不変接続も正則等長写像と関連することが判明した。このように、複素射影空間への正則等長写像の場合と異なり、本研究では様々な接続を考慮に入れなければならない。しかし、ベクトル束とその接続に注目することにより、写像に課すことのできる条件を格段に増やすことができるようになったと考えることもできる。したがって、段階的な研究目標が設定可能となる。これは、これまでの先行研究が複素射影空間への写像の研究と同様な方針で行われていたのとは大きく異なる。このような観点は今までになく、成果も出ていることから、この研究方針は有望であると思われる。 また、do Carmo-Wallach理論の一般化も調和写像の研究に重要であると考えられるので、調和写像の研究も正則写像の研究と比較しながら進めていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、計画していた共同研究(海外の連携研究者の招へいを含む)が行えなくなり、旅費、人件費・謝金が計画と異なったためである。引き続き、できる範囲内で共同研究を実施するために旅費等を使用したいと考えている。これにはオンラインでの研究等を推進するための物品費が含まれている。
|