研究課題/領域番号 |
21K03259
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小島 定吉 早稲田大学, 理工学術院, 教授(任期付) (90117705)
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研究分担者 |
山下 靖 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (70239987) [辞退]
逆井 卓也 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (60451902) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 双曲幾何 / 曲面 / タイヒミュラー空間 / 擬アノソフ写像類 / 写像トーラス / 3次元多様体 |
研究実績の概要 |
本研究は,曲面の擬アノソフ写像類の数多くある不変量を比較することにより,曲面および3次元多様体の研究に貢献することが目的である.2次元と3次元を 結びつけるルートとして,サーストンによる擬アノソフ写像類の写像トーラスには双曲構造が入るという事実がある.本研究の出発点は,以前にMcShane氏との 共同研究で得られた,擬アノソフ写像類のエントロピーとその写像トーラスの双曲体積との間の明示的不等式である. アノソフ写像類のエントロピーは,タイヒミュラー空間のタイヒミュラー計量に関する移動距離と同一視できる.そこで当初は,タイヒミュラー空間上の,た とえばベイユ・ピーターソン計量などの各種の既存の距離に関する移動距離と,写像トーラスの体積等の幾何学的不変量との関係を模索した. 一方昨年度正井秀俊(東京工業大学)が,移動距離が写像トーラスの体積に一致するようなタイヒミュラー空間上の距離を,擬フックス群 の繰り込み体積とグロモフのホロ関数を使って定義した.さらに今年度,イタリアのベルトロッティとフリゲリオが任意の写像類に対し写像トーラスの単体体積に一致する充満体積を定式化し.写像類群上の長さ関数を定義した.彼らの長さ関数の値は擬アノソフ写像類に対しては正井の距離に関する移動距離と一致している.一方,正井の距離が上限ノルムを使って定義されるので,その写像類群上の長さ関数はイタリアグループの長さ関数とは異なると思われる.しかし,疎幾何の観点からはそれほどは違わないと思われ,現在は両者の関係の精細化と我々の研究との結びつきの検討を続けている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的を達成するため,当初は既存の不変量の間の関係を,既存の不変量を出す枠組みの下で精密化することを念頭に置いていた.ところが概要で記した正井およびベルトロッティ・フリゲリオの仕事は,いずれも本研究に大きく関連するもので,当初念頭に置いていた研究計画を,両者が見出した独立の成果の詳細の解析することにシフトした.今年度中はその理解および解釈に時間を割いたため,直接的な成果が得られておらず,進捗状況は「やや遅れている」とした.しかし,研究は状況が変わって着実に進んでおり,来年度中に新たな展開が見出せるものと期待している.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に加え,概要に記した正井が定義したタイヒミュラー空間上の距離,およびベルトロッティ・フリゲリロによる写像類群上の長さ関数の理解を深める必要がある.正井の距離はフィンシュラーであるかも分かっておらず,課題が山積しており,本研究では喫緊の課題と位置づける.さらに,ベルトロッティ・フリゲリオの長さ関数がタイヒミュラー空間上の距離を定義するか,その上で正井の距離に擬等長であるかも重要な課題である.そもそも我々の評価はタイヒミュラー空間上の距離を使っていたが,正井らの距離を使うと評価はいかに改良できるかも本研究の主要な課題となる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を開始したとき,研究を牽引すべく初年度に国際研究集会開催を予定していたが,コロナ禍のため延期を余儀なくされた.現在は,本研究の総括を目指し,7月中旬に京都大学数理解析研究所で Characters and Moduli of Surfacces と題する国際研究集会を開催すべく,その準備を進めている.
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