研究実績の概要 |
本年度は, 不均質なグラフェン・カーボンナノチューブに対応する量子グラフの研究の一環として, 「複雑境界付きのグラフェンのバンド構造・エッジ状態の解明」を中心に研究を行った。まず, 本研究課題の入り口に当たる論文「Edge states of Schroedinger equations on graphene with zigzag boundaries」(2021年3月掲載)の結果を東北大学「確率論セミナー」や京都大学「作用素論セミナー」で口頭発表し, ジグザグ境界付きのグラフェン上のシュレディンガー作用素のスペクトルの構造について周知を行った。また, その解析方法を元に,本年度はさらに複雑な境界を持つグラフェンのスペクトル構造に試みた。境界の複雑さから, 対応するグラフェンの周期構造において基本領域が広がり, 移動行列が先行論文において2次正方行列であったのに対して, 本研究課題においては 4次正方行列となり問題が難化することとなった。しかし, 基本領域の位置取りを調整することにより, 移動行列を特殊なブロック分割の形で表すことができることがわかり, 4次の移動行列の固有値・固有ベクトルの計算が想像以上に代数的に計算が進んだ。さらに, 得られた固有ベクトルを用いて, 基本領域上のシュレディンガー方程式の解の L^2 ノルムの境界から離れる方向への減衰・増大の解析を進めた。その際, 指数増大に寄与する項の存在・非存在を線形代数の初等的道具であるクラメルの公式を用いて確かめることが有効に機能した。もしこの点に気付かなければ, 複雑な係数を持つ非同次4元連立一次方程式を直接計算しなければならず, ほぼ絶望的な状況を打開することができた。この内容は, RIMS共同研究「スペクトル・散乱理論とその周辺」で口頭発表した他, 現在論文として投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該研究課題の1つ目に当たる「複雑境界付きのグラフェンのバンド構造・エッジ状態の解明」の関わる結果が得られ, 論文として取りまとめて投稿することができているため。また, 「研究実績の概要」では述べる余白がなかったが, 不純物を含有する不均質なカーボンナノチューブについて, 負の固有値の個数を数える公式を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は, 本研究課題の2つ目の課題である「不純物を含有するカーボンナノチューブのスペクトル解析」を行う。まずは, ジグザグ型カーボンナノチューブの1つの環にδ型不純物が配置された場合, その強度に応じた負の固有値の個数を正確に数える公式を得ているため, その計算の再確認や論文の取りまとめ, 口頭発表などを行い継続的な解析も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度当初は, Chapman大学(アメリカ合衆国)で開催予定であった「IWOTA 2021」や、周期構造を持つ系のスペクトル理論として本研究課題と密接に関係のある国際研究集会「Workshop on Perturbation of Spectral Bands and Gaps」などに参加して情報収集・口頭発表をする予定であったが, どちらも新型コロナウィルスの影響でオンライン開催となり渡航に必要な額を使用しなかったことが次年度使用額が生じた理由として挙げられる。次年度使用額となった分は, Windows 11 の登場に伴い, オンラインでの研究集会参加や口頭発表、論文執筆に必要となるパソコン機器の充実化のために使用する。
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