研究課題/領域番号 |
21K03273
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
新國 裕昭 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (90609562)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 量子グラフ / グラフェン / カーボンナノチューブ / 分散関係 / 埋蔵固有値 / Floquet-Bloch理論 / 移動行列 / Shnol 型定理 |
研究実績の概要 |
2022年度は、連続グラフ上の微分作用素のスペクトルに関して3編の論文が出版および掲載受理されることとなった。 第1に、数学誌「Quantum Studies: Mathematics and Forundations」に掲載された論文では、アイスナノチューブに対応するシュレディンガー作用素のスペクトルの研究を行っている。カーボンナノチューブ内の水分子は27℃と高い温度で固体となりアイスナノチューブと呼ばれる特殊な分子構造を持つことがあることが知られている。本論文には、アイスナノチューブに対応する量子グラフを構成し、そのスペクトルのバンド構造について調べた結果が掲載されている。特に、自己共役な頂点条件の強さに応じて、バンド間にスペクトルギャップが生じるかいないかを分類する結果を得た。 第2に、「Operators and Matrices」に掲載された論文では、複雑なジグザグ境界を持つグラフェンに対応するシュレディンガー作用素に関するスペクトルの結果を述べている。扱っている境界の複雑さから、解の移動行列が関数を成分とする4次正方行列となる。その固有値や固有ベクトルを解析し、複雑なジグザグ境界を持つグラフェンのスペクトルの分散関係には、境界のないグラフェンの場合とは異なる代数多様体の存在が確認できた。また、エッジハミルトニアンとバルクハミルトニアンのスペクトルの比較ができるモデルを導いたという位置付けもなされる。 第3に、「Integral Equations and Operator Theory」に掲載された論文では、δ型不純物を含むカーボンナノチューブの負の固有値の個数を具体的に数え上げる公式を提示している。ジグザグ型カーボンナノチューブがδ型不純物の輪を1つ持つとき、その不純物の強度によって具体的に負の固有値の個数を表すことが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3編の論文が出版および掲載受理されることとなったため。
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今後の研究の推進方策 |
申請時に提示した3つの課題に分けて推進方策を述べる。 (I)「複雑境界付きのグラフェンのバンド構造・エッジ状態の解明」については、数学誌「Operators and Matrices」に出版された論文を持って一応の解決とする。 (II)「不純物を含有する不均質なカーボンナノチューブの埋蔵固有値の存在・非存在の解明」については、数学誌「Integral Equations and Operator Theory」で構築した証明方法を元に、対象は「負の固有値の個数を数え上げること」に切り替えることの方が相性が良いことも鑑みて、より広い枠組みで結果が出せるよう計算を進める。 (III)「キャップ付きカーボンナノチューブ上のシュレディンガー作用素のスペクトル解析」については、その幾何構造を記述する論文(2006年, Lair ら)を発見することができた。一般にはキャップを付けることでカーボンナノチューブの球対称性が崩れてしまうことがわかった上、球対称性があったとしてもやはり1周あたりの六角形の個数が多くなると大行列の解析をしなければならないことがわかった状況である。そのため、当初の予定通り、1週あたりの六角形の個数が少ない場合のスペクトル構造の解明を目指すことにする。 (その他)年次が進むにつれて興味深い話題があれば研究対象として取り込むことを検討していたが、1次元δ型点相互作用に従うシュレディンガー作用素について Shortley--Weller 差分作用素を構築し、レゾルベント差の評価の結果を前年度に得ている。こちらについては現在論文に取りまとめている状況で、次年度に投稿することを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症と国際紛争の状況を鑑み、国外出張を控えたため次年度使用額が生じた。引き続き、新型コロナウィルス感染症と国際紛争の状況を注視し、機会があれば国外出張の費用に充てる。難しければ国内出張や当該研究に関連する数学書の購入費として使用する。
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