研究課題/領域番号 |
21K03282
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
渡部 拓也 立命館大学, 理工学部, 准教授 (80458009)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エネルギー交差 / 準古典解析 / 遷移確率 / 固有値・レゾナンス / 完全WKB解析 / 準古典超局所解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では「交差する2つの井戸型ポテンシャルの生成する固有値」及び「エネルギー擬交差間の遷移確率の断熱極限」の2つをテーマに研究を行うものである。前者は愛媛大学の樋口氏及びAssal氏(チリ・カトリック大学)との共同研究で、後者は愛媛大学の樋口氏及びパリ13大学のZerzeri氏との共同研究である。 当該年度においては、主に後者のテーマについて愛媛大学の樋口氏ととも大きな進展を得た。この課題は、時間依存シュレディンガー方程式をモデルとした連立の常微分方程式系について、断熱パラメータのみならず、擬交差のギャップも小さなパラメータとした2パラメータ問題を考察するもので、擬交差のもととなるエネルギー交差の局所的な性質(交差点での傾きや交差点の個数)が、遷移確率の断熱極限にどのように現れるかを解析することが目的である。 この遷移確率の断熱極限の主要部は、完全WKB法を通して、変わり点を通るストークス曲線の幾何学的構造によって特徴づけられることが知られているが、2パラメータ問題としてみると、ストークス曲線の幾何学的構造のみならず、変わり点の合流過程も重要な役割を果たすことが予想されている。2021年、渡部-Zerzeriにより、エネルギーが線形交差を複数回起こす場合、その擬交差間の遷移確率について、ひとつの結果が得られた。 当該年度は接触交差モデルに関して考察した。この場合において、完全WKB法が適用できないケース(断熱パラメータより擬交差ギャップを表すパラメータが小さいケース)では既存の標準形理論は存在しないという点が長年の課題であったが、もう一方の研究課題「エネルギー交差に係る量子共鳴の準古典分布」で培われたエネルギー交差点における局所解の構成に帰着させる方法、特に共同研究者の樋口氏らの研究を援用した。この結果は、多くの研究会・学会で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自己点検評価として「おおむね順調に進展している。」と判断した理由は、論文として公表するまでには至っていないが、「エネルギー擬交差間の遷移確率の断熱極限」について、エネルギーが接触交差するモデルについて、プレプリントの作成まで概ね終了していることにある。特に、複数回交差するモデルを考察することで、擬交差間の影響から来る量子力学特有の現象を解析することができたことは、学術的にも意義があると考えている。 また、1つ目の課題である「交差する2つの井戸型ポテンシャルの生成する固有値」については、本研究課題の成果及び共同研究者の樋口氏ら結果を応用することで、固有値の分裂現象などを詳細に解析できることまでは明らかになっている。 コロナ禍の影響により、国際共同研究に関して、膝を突き合わせ黒板を介して議論する機会を得ることは残念ながらできなかったが、ひとつの結果が得られたことを鑑みて、ポジティブな評価に値すると考える。
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今後の研究の推進方策 |
論文執筆中の「エネルギーが複数回接触交差するモデルにおける擬交差間の遷移確率の断熱極限」の研究について、論文投稿を目指す。この研究において、競合する2つのパラメータの関係(交差点の退化次数から決まるパラメータの比)が重要であり、現在執筆中の論文では、criticalなケースについては、議論できていない。この点については、研究を進める必要がある。 また次年度は、もう一つの課題である「交差する2つの井戸型ポテンシャルの生成する固有値」についても、進展を得るよう注力したい。この研究では、3元連立系も比較対象であり、その解析は「3準位エネルギーの擬交差間の断熱遷移問題」への拡張にも活かせるものと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際共同研究として、Zerzeri氏(パリ13大学)との断熱遷移確率のプロジェクト、及びAssal氏(チリ・カトリック大学)及び樋口氏とのプロジェクトが進行中である。そのための旅費及び招聘費としての使用を予定していたが、コロナ禍による渡航自粛により、海外渡航費用が不使用になってしまったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。 一方、コロナ禍でも国内旅費として、共同研究者の樋口氏の旅費や、例年3月上旬に開催している偏微分方程式姫路研究集会の旅費の補助として、本科研費を役立てることが可能であったが、コロナ禍の影響で執行延長していた科研費の執行を優先したことも、次年度使用額が生じた理由である。 しかしながら、次年度には、これまで予定していた海外渡航費での使途が計画中であり、昨今の物価高による渡航費の高騰を考慮すると、使用計画としては概ね順調であると考えている。
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