研究実績の概要 |
研究初年度にあたり、基礎的な内容に焦点をあてた。筆者が2016年に構築した超対称C*力学系(supersymmetric fermion lattice systems)を特別な場合として含む、一般的な設定で、基底状態(ground states), 熱平衡状態(KMS states, Gibbs states)を力学系の観点で研究した。 1970年代から、古典格子スピン系に於いては、平行移動不変な平衡状態は相対エントロピー密度を利用した変分原理から定式出来ることが知られている。この変分原理の量子系への拡張について、日本数学会(秋)で講演した。確率論では、平衡状態はDLR条件で定義される。一方、DLR条件に対応する概念は量子系には無く、また、ポテンシャルを用いた素朴な拡張には困難が伴う。そこで、量子系では、他の着想が必要である。量子ダイナミクスを起点に問題を定式し、量子ダイナミクスに関するC*代数の結果を組み合わせることで、古典系との類似がもたらされることを示した。 また、格子フェルミオン超対称性模型の例であるニコライ模型を考察した。そのハミルトニアン対角化に取り組み、少数系(周期8点格子)では、Jordan-Wigner変換で得られるハミルトニアンの固有値がすべて0以上の整数値であることを発見した。古典基底状態から、量子基底状態、さらには励起状態に考察を広げ、固有状態の区分と相互の関係付けを行った。励起状態においても高い縮退を持つが、古典状態と量子状態の割合は、基底状態とは異なる様子を示すことが分かった。超対称C*力学系としてエルゴード性が破れることを2018年に示している。今回、励起状態においても非エルゴード的で、ダイナミクスは凍結していることを明らかにした。
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