研究実績の概要 |
圧縮性ナビエ・ストークス方程式において, 空間1次元の場合には境界条件と無限遠方条件の組み合わせに応じて, 様々な解の漸近挙動が考察されてきた. 空間多次元の場合は境界上における流速が静止しているという条件の下で定数自明解の漸近安定性が示されている.また, ポテンシャル外力がある場合の定常解の漸近安定性の研究も既に知られているが, 境界からの流入や流出がある場合の圧縮性ナビエ・ストークス方程式の球対称問題においては, 定常解の存在さえ知られていない. そのため今回境界上での流速に制限はあるが, 定常解の存在について証明を行ったものが以下の研究成果である. (大阪大学の松村氏との共同研究) Itsuko Hashimoto, Akitaka Matsumura “Existence of Radially Symmetric Stationary Solutions for the Compressible Navier-Stokes Equation”, Methods Appl. Anal. (2021年号,掲載決定済) 本研究成果は応募者が実際に圧縮性ナビエ・ストークス方程式の球対称問題を取り扱った最初の論文であり, 現在漸近安定性についても研究を進めており論文は国際雑誌に受理された. 本結果は比体積に対する積分方程式に縮小写像の原理を適応させて得ることが出来た. また上記で得られた定常解について現在漸近安定性の研究を進めている. 漸近安定性については先ず定常解の詳しい漸近率の計算が必要である. 東京工業大学の西畑教授、杉崎聡平氏と共に詳しい漸近率の計算を行った. これと半直線上での既存の結果を参照し圧縮性ナビエ-ストークス方程式と定常解との差の方程式に関するアプリオリ評価を行った. アプリオリ評価を得ることは無事に成功し, これとKawashima-Nihibata-Zhu(2003)による結果を組み合わせ局所解の存在及びヘルダー空間での評価を通して定常解の漸近安定性の計算を順調に進めている.
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今後の研究の推進方策 |
現在,圧縮性ナビエストークス方程式の球対称問題において「流入問題」及び「流出問題」の研究を開始している.直近の結果として流入問題に関しては境界での流体の流入速度に応じた境界層解が存在することが明らかになった.今後はこの境界層解の構造を調べ,圧縮性ナビエストークス方程式の粘性ゼロ極限とオイラー方程式との関係も考察していく. 一方, 宇宙流体物理では, 超新星爆発などにより気体が飛散する場合, 衝撃波は自己相似解の如く振る舞うことが定説である. そこで, 流体方程式の球対称解に対して偏微分方程式論的な見地から,自己相似解の存在および非存在を検証していく. 目下のところ存在が期待できる自己相似解が,実際には同程式の衝撃波となっているかという問題は,数学,宇宙物理学双方の興味の対象である. 粘性衝撃波の存在が明らかになれば,更なる問題としてその漸近安定性を解析する.
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