研究実績の概要 |
令和3年度では「(I-1) 強退化放物型方程式の衝撃波型の進行波の構成」, 「(I-2) 研究(I-1)で構成した進行波の周りでのエントロピー解の漸近挙動」, 「(II) 結晶粒界現象を記述する数学モデルの解の構造解析」を行い, 以下の結果を得た. (I-1) 強退化放物型方程式に対し, 移流項にはオレイニック衝撃波条件を課し, 拡散項の退化領域の連結成分の数が1の場合を考察した. このとき, 高々1個の不連続点を持つ進行波が5種類構成できることを証明した. この進行波は衝撃波と粘性衝撃波を組み合わせた形をしており, 方程式の持つ放物型の性質と双曲型の性質が共存している様子を表現している. 解の構成には不連続点の動きを記述するランキン・ユゴニオ条件の計算が鍵となる. (I-2) 強退化放物型方程式の一般化された意味の解であるエントロピー解の漸近挙動を考察した. 特に, (I-1)で構成した進行波へ弱い意味で漸近することを証明した. さらに, 構成した進行波を用いて比較関数を構成し, 比較原理と組み合わせることでエントロピー解の界面の進行速度を評価した. (II) 研究協力者の白川氏(千葉大学), Moll氏(バレンシア大学)と共に結晶粒界現象を記述するKobayashi-Warren-Carterモデルの多次元ディリクレ境界値問題を考察した. エネルギー消散性を持つ解を構成し, 時刻無限大でのオメガ極限集合が定常問題の解で特徴づけられることを証明した. さらに, 定常問題の解の構造解析を行い, 1次元問題に対しては構造を完全に解明すると共に, 解のSBV正則性を得た. また, 2次元球対称解が存在するための十分条件を得た. (I-1), (I-2)の成果は査読付き論文(1編)が出版されており, (II)についても査読付き論文(1編)が2022年4月に出版される予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強退化放物型方程式に対しては, 予定通り衝撃波型の進行波を構成することができた. 拡散項に対する仮定はより一般化することが可能であり, これらの結果を現在論文にまとめている. エントロピー解の漸近挙動についても計画通りChen-Fridの手法を適用することができ, エントロピー解の進行波への弱い意味での漸近を得ることができた. 一方で初期関数に対する仮定を強める必要性が生じたため, この制限を外すことは今後の課題である. 結晶粒界現象を記述する数学モデルに対しては, 1次元定常問題の解構造を解明できた点に加え, 解の特異な部分は不連続点のみであることを示すこともできたことは大きな成果であると考えており, 研究計画は順調に進んでいる. 以上より, 本研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
強退化放物型方程式に対しては, 希薄波型の特殊解や有界かつ可積分な特殊解に対する考察を開始する. 実際, 希薄波型の優解・劣解については(I-1)と同様の手法で構成可能であることが分かっているため, これらの結果を基に更なる成果を得ることを試みる. 結晶粒界現象を記述する数学モデルに対しては, 境界条件の変更や多次元化など, 時間発展問題を考察するための足掛かりとなる結果を積み上げる. また, コロナ禍で中断していた研究協力者との対面での研究打合せを再開させ, 研究の更なる進展を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入の優先順位を変更したため, 物品費に未使用額が生じた. 未購入物品については令和4年度以降の予算と合算して購入を検討する. コロナ禍であったため出張をすることができず, 旅費を使用することができなかった. 令和4年度以降は徐々に出張を再開する予定である. その他については, 令和4年度以降の予算と合算にして査読付き論文のオープンアクセス費として使用する予定である.
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