研究実績の概要 |
今年度は、(計量を仮定しない)平坦構造と大久保型線形微分方程式のモノドロミー保存変形との関係について詳細な研究を行った。前年度に出版された著書においてまとめられたように、(計量を仮定しない)平坦構造の下部構造として3つ組(M,D,Δ)が定まる。一方で、(計量を仮定しない)平坦構造と大久保型線形微分方程式のモノドロミー保存変形が関係することは、本研究課題およびそれ以前の研究の成果として(理論的には)分かっていた。特に、3次元の平坦構造はパンルヴェ方程式と関係する。これら2つの視点を合わせると、(計量を仮定しない)平坦構造の下部構造として定まる3つ組(M,D,Δ)がパンルヴェ方程式の解の不変量を与えるということが期待される。今年度の研究では、(計量を仮定しない)平坦構造に対するポテンシャルベクトル場が満たす拡張WDVV方程式の解を具体的に構成することにより、パンルヴェ方程式の解に対して3つ組(M,D,Δ)および平坦座標系がどのような意味を持つかについて調べた。その結果として次のような成果が得られた: 1.第6パンルヴェ方程式の動かない特異点の近傍での挙動を平坦座標系を独立変数として表示することにより、第6パンルヴェ方程式の(超越的)一般解の局所的構造を記述することができた。 2.平坦座標系を独立変数に取ることにより、第6パンルヴェ方程式の一般解と第5パンルヴェ方程式の一般解とを統一的に記述することができた。特にこれら2種のパンルヴェ方程式の解の間のつながり方を明示的に記述することができた。 特に2つ目の結果は、最近の稲場道明氏や廣惠一希氏による合流と回折を用いた不確定特異点を持つ接続のモジュライ空間の記述とも整合的であり、パンルヴェ方程式の解についての研究の新しい方向性を示唆するものと期待できる。
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