研究課題/領域番号 |
21K03320
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
篠原 克寿 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (50740429)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヘテロ次元サイクル / 野生的力学系 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究は新型コロナウイルスの影響で予定の変更があった.具体的には,当初予定をしていた非双曲型力学系の研究に関する国内・海外出張について,九州大学およびニュージーランドへの出張を2022年度以降に延期することにした.一方で,フランス,ディジョンのブルゴーニュ=フランシュ=コンテ大学・CNRS の C.Bonatti 氏を訪問し,非双曲型力学系の分岐構造に関する研究打ち合わせを進めた.具体的には,氏と過去の研究で定義した partially hyperbolic filtrating Markov partition というクラスの力学系のうち性質 (l) と呼ばれる条件を満たすものに対して,それらが非周期類を発生させるメカニズムに関して,特に微分トポロジー的な情報に関して整理を行った.結果として,摂動後に得られる非周期類が(非)極小性,拡大性,非一意エルゴード性,非推移性,などといった様々な力学系的性質を満たすことを証明する道具立てができたことになり,これらを用いて2022年度以降本格的に証明を記述することになる予定である. 2021年度の業績としては二点ある.1.非双曲型力学系における特徴的な構造であるヘテロ次元サイクルと呼ばれる構造を有する力学系に対して,通有的に周期点の(周期に関する)分布がどのようになるかを調べる論文が学術誌 Discrete and Continuous Dynamical Systems に掲載決定された.2.同じく,ヘテロ次元サイクルを有する力学系に対して,周期点の(周期に関する)分布を調べた論文が学術誌 Compositio Mathematica に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は非双曲型力学系に関する分岐理論に関する研究を進めた.結果としては,非双曲型力学系の分岐現象をとらえるにあたって重要となる微分トポロジー的情報を具体的かつ使用しやすい格好にまとめることができた.この研究は非双曲型力学系においてどのような非周期類が発生しうるかという問題を理論的に追求したものである.これらは当初予定であった非双曲型力学系の数値解析研究に対する基礎理論となり,これらの結果を数値解析的観点から見直すことでより深い知見が得られると期待される.その意味で研究は確実に進捗しているといえる. その一方で,2021年度は新型コロナウイルスの影響で,当初予定していた数値解析研究に関する研究打ち合わせを実施することが難しく,ヘテロ次元サイクルの分岐やヘノン写像の歪直積系に対する数値解析的研究・理論研究についてはあまり進展がなかった.この観点からは,当初予定の研究計画としては遅延が発生していると考えられる. 一方で,2021年度得られた結果は2022年度以降実際に数値解析的研究や理論研究を進める際の足掛かりとなるものである.当初予定としては数値計算の結果も合わせつつ理論研究を進めることにより研究進展の相乗効果を期待していたが,数値解析的研究を特に用いることなく理論的研究が進んだという状況になっている.その意味で当初予定の計画順序通りには進んでいないものの,総体としてみた場合に特に遅滞があるとするまでもないように思われ,順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は現在研究の進捗が得られている非双曲型力学系の分岐理論に関する研究を進めていく予定である.具体的には2021年度に確立した微分トポロジー的な情報を具体的な系で実現する議論を精緻化し,これを論文の形にまとめることである.このためには非周期類構成全体にかかわる技術的問題をこれまで得られた微分トポロジー的情報とうまく組み合わせる必要があるが,このプロセスに関する理解を深め,論文の形にすることを2022年度以降取り組んでいく予定である.全体としてはおおむね見通しが立っているので,2022年度には具体的な論文の形にまとめることができると期待している. また,新型コロナウイルスの影響で当初計画していた九州大学・オークランド大学(ニュージーランド)への出張が実施できずにいるが,状況が改善したらこれらについて実施をして,数値解析的アプローチを用いた非双曲型力学系の分岐理論に関する研究を進めていきたい.より具体的には1.ヘテロ次元サイクルやヘノン写像の歪直積で与えられる力学系に対して,これらの周期点や不変多様体の構造を数値解析的に明らかにし,力学系に摂動を与えた場合にどのような変化がみられるかを具体的に観察する研究,2.これらの情報をもとにヘノン写像自体の分岐について,極限集合の組み合わせ論的情報に着目して分岐を調べる研究,の二点を行う予定である.また,すでに進展している非双曲型力学系の分岐理論に関する研究の観点からこれらの結果がどのように理解できるかについても整理を行う予定である.
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