研究課題/領域番号 |
21K03341
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
古市 茂 日本大学, 文理学部, 教授 (50299327)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | エントロピー / Jensen不等式 / 作用素 / 行列平均 / Aczel不等式 / Gruss不等式 / 凸解析 |
研究実績の概要 |
Raissouli氏との共著で,作用素のより一般的な汎関数を考察の対象として凸解析を用いて,様々な重み付き平均に関する入れ子状態の不等式を得た. Nasiri氏とは,正定値行列のある種の一般と考え得るセクター行列を用いた研究を遂行した.得られた結果としては, 調和平均,幾何平均,算術平均の大小関係をセクター行列に一般化したTan-Xieの不等式の逆不等式を導出したことが主である.また,Garg-Aujlaの不等式を用いた特異値不等式,行列不等式などへの応用を論じた. Minculete氏との共著論文ではYoungの不等式の改善とその相対エントロピーへの応用を行った.また,算術平均と幾何平均の差を精密に見積もりエントロピー不等式への応用を行った. Moradi氏,Sababheh氏らとの結果としては次が挙げられる.すなわち,作用素平均の順序を補完する平均とそれに関する不等式の導出に成功した.また,作用素版のJensen不等式のより改善された成果を得た.これは凸解析を応用して,よりタイトな見積もりに成功したということである.次に,凸関数の合成関数を考察した.特に,凸の度合いを測るには?という観点に立って,数学的に考察した成果を得た.さらに,通常の凸解析を用いて,2つのアクレイティブ行列(デカルト分解時の実部が正定値である行列)の行列平均に対する新しい不等式を導出しこれまでの結果を改善した.別の観点から,数域半径およびTsallis相対エントロピーに関する新しい結果も得た.また,新しいアプローチで有名なGruss不等式を示した.さらに,いくつかの作用素版Gruss不等式を数域半径およびエントロピーの応用と共に示した. Kaleibary氏らと共に,作用素版のAczel不等式とその逆不等式の証明に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主要因は国内外の研究会や国際会議への参加が出来ずにその準備や旅程にかかる時間などをすべて研究遂行・論文作成に充てることが可能となったためであると思われる.これまでは,出張時にはスライド作成のみならず,往復のチケット・ホテルの予約・現地での交通のチェックなど多くの手間と時間が掛かっていたがそのような煩わしいことから離れて本質的な研究内容に没頭することができたためである. 具体的には申請時の目的に掲げた1つのセクター行列に関する研究について,調和平均,幾何平均,算術平均からなる不等式の逆行列の導出に成功した.また,セクター行列に関する特異値不等式や行列式不等式を示すことができた.一方で,Liebの凹性についてセクター行列まで一般化するには至っていない.また,別の課題として掲げていた,凹凸の問題,すなわち,凸の度合いについての研究に関しては一つの論文を書くことで一定の成果を得た.また,作用素不等式や作用素相対エントロピーに関する不等式についてもいくつかの成果を得た.しかし,最初の課題として掲げた量子情報理論に関する成果を得るには至らなかった.不等式を中心として数学そのものの研究に注力したため,量子系の信頼性関数を用いた符号化定理については考察する時間がなかったことが主な要因である.もっとも,この問題はかなり困難なものと自覚していることもありこの研究課題中に完全に解決する可能性も低いと考えているがどこで問題点が大きくなっているのかについて調べることが急務である.
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今後の研究の推進方策 |
情報エントロピーをはじめとする様々なエントロピーに関する数理的な基礎研究を行う.特に,エントロピーや相対エントロピーの上界・下界の改善を目的とする.そのために必要となる数学的な不等式の導出も研究の対象とする.改善された不等式の導出にあたっては凸解析,関数解析などの知識を利用する.具体的な研究内容としては,作用素のHermite-Hadamard不等式の改善について行う.行列解析や作用素論の分野で近年しばしば研究されているSector行列を用いた一般化された特異値不等式,ノルム不等式,行列式不等式などの導出も目的の一つである.さらに,Kantorovich不等式やAndo不等式に関する新規の結果についても研究の対象とする.一方で,情報理論との結びつきの強いlog-sum不等式についてパラメータ拡張したスカラーおよび行列不等式を導出する.その他にも重み付き平均に関する不等式や凸関数に関連した不等式についての基礎研究も行う予定である.
また,対数平均などいくつかの平均やgeometric bridgeに対してユニタリ不変ノルム不等式の成立の可否について研究していこうと考えている.そのほか,複素数に対する三角不等式の数値水域の上界・下界への応用や対称化した凸関数を用いた数学的不等式の研究に注力する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議への出席を予定していましたがオンラインでの開催となったため外国出張旅費分の30万円ほどが未使用に終わったため。今後の使用計画については,論文のジャーナル掲載料やパソコンなどの機器購入に充てるつもりです。また,出張については国内出張から徐々に通常に戻っていくことを予想して,まずは国内出張費用に充てるつもりでおります。
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