研究課題/領域番号 |
21K03352
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小布施 祈織 岡山大学, 環境生命科学学域, 准教授 (90633967)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 回転球面 / β平面 / 非圧縮性流体 / 2次元乱流 / 帯状流形成 / 非線形相互作用 / リャプノフ解析 |
研究実績の概要 |
・回転球面上の非強性非圧縮2次元流では、強い西向き周極流が形成されることが知られている。この際、東西流成分の中でも特に赤道対称なもの、すなわちここでの完全系である球面調和関数Y_n^mの n=奇数,m=0 成分のみにエネルギーの輸送が行われるのが特徴である。そこで本研究では、Y_n^0で表される成分の時間発展において、nの偶奇による差が、流れ場の時間発展方程式に含まれる非線形項のどこで現れるのかを、Silberman(1954)の表記を用いて数値的に調べた。その結果、非線形項の形そのものから偶奇による差は生じていないことが分かった。このことは、流れ場における東西流形成メカニズムは、非線形項の形そのもののみで説明できるものではなく、非線形項と流れ場の状況の両方を考慮した議論が必要であることを示唆している。
・回転球面上2次元乱流およびβ平面上2次元乱流において十分に時間が経過した後の大規模構造を有した流れ場について、リャプノフ解析を行った。Shimada-Nagashima(1979)の方法により上位15 個のリャプノフ指数を調べたところ、β平面では球面に比べてやや小さな値を有しており、さらに15 個が強く縮退していた。次いでリャプノフベクトルをGinelliら(2007)の方法を用いて数値的に調べたところ、球面でのリャプノフベクトルは全て、各半球にまたがり特に極周辺で強い値を持つ渦巻き状の構造を有することが見いだされた。一方、β平面ではどのリャプノフベクトルでもはっきりとした構造は示されなかった。球面とβ平面でのリャプノフ指数およびリャプノフベクトルが大きく異なる性質を示すことは、少なくともリャプノフ指数やベクトルが関係するような問題において、そしておそらくは長い時間スケールでの流れの変化に関わる問題において、β平面は球面の良い近似とはなっていないことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Silbermanの表記を用いて非線形項の評価を行う課題では、予想とは全く異なる結果を得たものの、帯状流形成メカニズムに関する非常に興味深い事実を示唆する知見を得ることができた。現在は、ここで得た結果のクロスチェックを行っているところである。この課題に関しては、現時点では特に問題なく順調であると考えている。
リャプノフ解析を行う課題でも、進捗状況はおおむね順調である。ただ、球面とβ平面の両方において、計算した15種類の共変リャプノフが全て非常に似た構造を有しており、結果として第一リャプノフベクトルよりも多くの情報を得ることが出来なかったのが懸念事項である。上位15個のリャプノフベクトルがほぼ同じ構造を有していることが何を意味しているのかについて、現在研究を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
Silbermanの表記を用いて非線形項の評価を行う課題では、まず、2021年度に得た結果の(スポットチェックではあるが)クロスチェックを行い、結果を確定する。次いで、どのような流れの状況のときに帯状流形成が促進されるのかについて理解するため、既存の数値計算データを用いて、流れ関数のY_n^0成分の時間発展の時間発展を詳細に調べる。
リャプノフ解析を行う課題では、β平面においてみられるリャプノフ指数の強い縮退の原因は何なのか、上位15個のリャプノフベクトルがほぼ同じ構造を有していることが何を意味しているのか、について調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地開催が予定されていた2つの国際会議がオンライン開催になったことで旅費の使用が大幅に減少し、その結果次年度使用額が生じた。 繰り越された経費は、国際会議への出席およびワークステーションの購入に充てる予定である。
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