研究課題/領域番号 |
21K03356
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
高石 武史 武蔵野大学, 工学部, 教授 (00268666)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 変分不等式 / フェーズフィールド / き裂進展 / 数理モデル / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
外部接触条件を拘束条件として持つき裂進展現象を、弾性体の変形において変分問題と拘束条件としてモデル化し、FreeFEM と IPOPT パッケージを用いてその数値シミュレーションコードを開発した。また、裁断機による断裂のように移動する外部拘束条件を持つ場合について、2次元のき裂進展現象のシミュレーションを行い、現実的な断裂を再現できる可能性があることがわかった。これらの結果を、日本応用数理学会2022年度年会において「外部接触条件を加えたフェーズフィールドき裂進展シミュレーション」として発表し、変分不等式問題としてシミュレーションを実行する場合の結果、そしてき裂進展の過程での変形によって破壊面同士が接触してしまうために、き裂形状を正確に把握するためには内部接触面の非貫入条件の設定が必要なことについて述べた。 そこで、圧縮による材料破壊に起因して起こるき裂に注目し、不等式による外部接触条件を含めた拘束条件を加えたエネルギーの変分不等式に加えて、内部接触条件については、Chambolle-Conti-Francfort による unilateral contact condition を用いて、フェーズフィールドを利用した内部接触条件を課す方法を検討した。内部接触条件のモデル化については、Kimura-T-Alfat-Nakano-Tanaka で導出された内部接触面の非貫入条件を課した勾配流モデルを用いた。また、このモデルを用いて、2 次元平板におけるき裂進展において、き裂進展に伴う破壊面の接触による貫入を行わないように計算する数値シミュレーションコードを開発し、動作を検証した。その結果、き裂/破壊面を挟んだ材料の変位が非現実的な結果とならずに計算できることがわかり、裁断における断裂についてパラメータを変えながら調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者と木村によって導出された勾配流型き裂進展フェーズフィールドモデルは、フェーズフィールドによってき裂部分のエネルギー増加を自動的に除外する弾性変形の静的時間発展方程式と、き裂の進展を表現するフェーズフィールドの時間発展方程式からなり、これらを拘束条件のついた変分不等式問題として数値シミュレーションする方法を検討している。 2022年度に導入した計算サーバにおいて、2021年度に検討したフェーズフィールド時間発展方程式の変分不等式モデルの3 次元数値シミュレーションコードの動作を確認したが、計算コストが予想より増加しており、改善方法を更に検討している。弾性変形に対して外部接触条件を課した変分不等式問題については、2021年度からモデル化を始め、こちらもFreeFEMのIPOPTパッケージを利用することで外部接触条件を満たした解が求められることを確認し、2次元のモデルにおいては高速に数値シミュレーションが実行できることを確認した。今後、3次元問題への適用によりどの程度計算コストが大きくなるか検討する必要がある。 内部接触面の扱いについては、いくつかの方法を検討した結果、内部接触面の非貫入条件を課した勾配流モデルと組み合わせてモデル化することで、断裂のプロセスを現実に近い形で再現できる可能性が見いだせた。現在2次元モデルを用いて、裁断機などによる断裂面の形成過程の再現を試みており、数値計算上のコストはそれほど大きくないことがわかった。3次元モデルにおいて実用的な計算コストに収まるかどうかは今後の検討が必要である。 接触面の摩擦のモデル化については、調査の結果いくつかの文献が見つかった。引き続き調査を行い、モデル化、応用、数値計算の容易さなどの観点からそれぞれの方法について検討していく。 以上より、一部検討を続ける必要のある項目はあるものの、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
フェーズフィールド時間発展方程式の3次元シミュレーションの高速化について検討を行う。また、弾性変形の方程式に外部接触条件および内部接触条件を課した3次元シミュレーションを行うことで、裁断機における断裂や断層面の接触変形など、現実的な断裂面の解析を行う。これらの数値シミュレーションにおいて、IPOPTパッケージ内の計算が並列化されることでどの程度計算効率が上がるか確認しながら研究を進める。また、特に弾性変形の方程式の計算負荷は大きいため、IPOPTパッケージ内の並列化のみでは十分な効果が得られない場合も想定され、その場合は領域分割法も併用した数値シミュレーションコードの開発を検討する。 モデル化に関しては、2023年度に国際会議での研究成果発表を行うことで、他研究者からの意見を受け、検討することで、さらに発展させる方向を探っていきたい。内部接触面の摩擦条件については、先行論文によるモデル化の検討をさらに進め、モデルへの反映の可能性を探り、可能であればシミュレーションコードに組み込んでその実効性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に International Conference on Computational Contact Mechanics (ICCCM2023、トリノ) にて研究成果の発表を予定している。航空機運賃が高騰しているため、海外出張旅費に追加して利用する。
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