研究実績の概要 |
最新の考古学・民族史学研究では、定量的データの記載が進みつつあり、集団遺伝学で発展した解析手法を援用する形で、解析が行われるようになりつつある。一方で、文化進化は遺伝進化にはない特徴を持ち、その結果、集団遺伝学で整備されてきた木村の拡散方程式などの手法が、直接は適用できない部分がある。例えば、DNAは突然変異によって塩基対が変化することはあるが、消失することはまれである。しかし文化は、継承の失敗によって消失することが多い。その結果、固定状態と絶滅状態が、文化進化のモデルにおいては非対称となり、例えば標準的な集団遺伝学で計算される固定時間の概念などが、文化進化モデルでは存在しなくなる。 本年度は、ドイツBielefeld大学で行われたSPP 1590: Probabilistic Structures in Evolutionに招待され、文化進化の数理モデルについて研究発表および討論を行った。特に、集団遺伝学における Ancestral Selection Graphの手法の文化進化理論への適応と、新たな数学的展開について、Ellen Baake教授と共同研究を開始した。これは、文化要素のage-frequencyスペクトルについての既発表論文(Kobayashi, Wakano, Ohtsuki 2018)を、連続時間モデルに発展させた上で、前向き及び後ろ向き過程の双対性、birth-deathプロセスにおける最新の数学的知見を組みあわせた上で、特に、これまでの方法ではできなかったスペクトルの分散や、異なる文化要素間の相互作用を解析しようとする試みである。
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