本研究課題では,シュレディンガー問題と呼ばれる,初期分布と終端分布が固定されたブラウン粒子の中で最も起こりやすい時間発展を求める問題の数値解法について研究している.初年度である本年度では,文献調査を重ねた結果,当初の研究計画とは異なる方針を採用することにした. シュレディンガー問題と終端分布制約付き確率制御問題が等価であることは,過去の文献でしばしば言及されているが,所与の確率測度がウィーナー測度の場合を除き,数学的に厳密に示した論文は無かった.本年度の研究では,確率制御問題をマルチンゲール問題により定式化することにより,シュレディンガー問題との同値性を証明した.これにより,連続関数の空間上の確率測度の最適化問題を,より扱いやすい制御問題に帰着可能であるということを明確にできた. 上述の成果を元に,所与の確率測度に対応する生成作用素の拡散項がゼロに収束する極限において,シュレディンガー問題の近似解を構成することに成功した.ドリフト項がゼロ,拡散項が定数の場合に,この極限が二次コストの最適輸送問題の解に収束することが2004年に三上により示されており,本研究成果は最適輸送問題の近似解を与えたことに相当する.最適輸送問題は機械学習分野において盛んに応用されているが,既存の数値解法の多くは離散分布に限定した上で最適化問題を解いている.この離散化による輸送はしばしば非能率的であることがいくつかの実証研究によって明らかになっている.実際の有用性については今後の研究課題だが,本研究成果は分布の離散化に依存しない新たな数値解法を提供する. 以上の成果を纏めた一編の学術論文を現在投稿準備中である.
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