研究課題/領域番号 |
21K03377
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
横山 和弘 立教大学, 理学部, 特定課題研究員 (30333454)
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研究分担者 |
野呂 正行 立教大学, 理学部, 教授 (50332755)
篠原 直行 国立研究開発法人情報通信研究機構, サイバーセキュリティ研究所, 研究マネージャー (70565986)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 計算機代数 / グレブナー基底 / 多項式イデアル / 計算量解析 |
研究実績の概要 |
令和4年度では前年度の継続と第2段階に向けての基礎研究を行った。 理論解析では、SBAアルゴリズムの計算量に関して、イデアルの正則性、半正則性の観点から文献調査を行い、イデアルがgenericなケースに関して、既存の理論の統一と整合性の確認を行った。令和4年度末時点では論文化されていないが、令和5年度の前半に論文化し、国際会議等での発表を予定している。第2段階と考えている「より一般的な形でのSBA理論」に関しては、非可換代数である交代代数におけるグレブナー計算にSBAを適用し、国内会議・国際会議での発表を行った。 SBAアルゴリズムの実装とその有効性検証では、簡約操作の効率化をおこなった。SBAは、ブッフバーガー算法と同様にS多項式を中間基底で簡約することで計算が進行するが、S多項式の選択順序および簡約に条件がつくため、F4アルゴリズムのように、「一度に多くのS多項式を取り出して、それを簡約するのに十分なreducer(簡約につかう多項式) を用意してベクトル化を行い、最終的に行列の形に直した上で簡約を行う」という方法が取りにくい。そこで、SBAにおけるS多項式の選択順序に従って、毎回1つのS多項式を簡約するが、簡約自体はS多項式やreducerをベクトル化して、ベクトルに対する簡約で行う方法を考案した。計算機代数システムRisa/Asir上で計算実験を行い、全次数辞書式順序でのグレブナー基底計算において、最大10倍程度高速化する場合があることがわかった。 応用研究では、多変数公開鍵暗号の安全性の基礎となるMQ問題と呼ばれる「連立2次多変数代数方程式の解を求める問題」をグレブナー基底計算を使って効率的に解くことを検討した。ここではF4型のアルゴリズムを適用し、MQ問題を効率良く解くためのS多項式選択方法を提案して、その効率性を数値実験的に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SABアルゴリズムの計算量解析に関しては、最終的な論文化と会議等での成果発表までには至っていないが、文献調査や研究協力者等の専門家との交流により、イデアルがgenericな場合が「本質的」であることを認識し、このケースに関する既存の様々な理論の整合性を確認し、それらを統一する精密な理論構築の道筋が明確になってきている。SBAアルゴリズムの実装においては、令和4年度には、SBAアルゴリズム本体の高速化を実現するF4型の簡約法の適応に成功し、計算機実験による、高速性が認められた。これは高速実装におけるマイルストーンになるものと考えている。 応用研究では、SBAアルゴリズムの直接適用までは至っていないが、いくつかの工学的問題に対して、それから得られるイデアルの構造解析や連立代数方程式の求解問題を扱い、グレブナー基底計算の有効性を検証し、効率化も行っている。 以上により、理論面の進捗が遅れ気味ではあるが、その他のテーマの進捗を合わせると、当初の計画に沿った形でおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
理論研究では、令和4年度に得られたイデアルがgenericな場合の、「正則性・半正則性」の観点から「実際の計算」と整合する計算量評価を行う。このために、研究協力者や海外からの専門家を招いての研究討論等を行う。最終年度であるので、具体的な対象から一般まで、幅広い形で研究を推進し、その成果を国際会議・国際雑誌等で積極的に発表する。 実装研究では、引き続き数式処理システムRisa/Asir上の実装実験を行い、最適な順序の考察やF4計算法との融合に関するこれまでの成果を発展させる。また、理論研究の成果を実装実験にも反映する。 応用研究では、工学等で現れる連立代数方程式の求解へのグレブナー基底計算の適用を引き続き行い、従来のグレブナー基底計算に対する改良法の実験から得られた知見を活用して、SBAアルゴリズムを直接連立代数方程式に適用し、その有効性の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス蔓延の影響で国内外の研究集会がオンライン化されたため、出張関連の予算の執行ができなかった。また、実装実験用に購入予定であった計算機サーバーについては、従来の計算機環境での実験を行うことで、機種選定を見直した。結果として、令和5年度に、より高性能なPCを購入することに変更した。 令和5年度では旅費として、国際会議・国内会議および国内外の研究者との共同研究に使用し、物品費としては、執行できなかった予算により高性能PC (複数台)を年度開始後にすみやかに購入する。
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