研究課題/領域番号 |
21K03378
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中尾 充宏 早稲田大学, 理工学術院, その他(招聘研究員) (10136418)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 数値解析 / 精度保証付き数値計算 / 有限要素法の構成的誤差評価 / 解の数値的検証法 / 計算機援用証明 |
研究実績の概要 |
関係研究協力者との情報交換を緊密に行い恒常的に検討を進めた。本年度得られた主な研究実績は以下の通りである。 (1)3 次元定常Navier-Stokes 方程式の解に対する数値的検証を実現するために、3次元Stokes 方程式の有限要素解に対する、a priori誤差評価定数を構成的に求めた。この結果を用いて3 次元Navier-Stokes 方程式の解に対する数値的検証を実現し、非凸領域上の問題に適用し、検証法の有効性を実証した。(2)非線形放物型方程式の解の爆発時刻を精度保証付きで求める手法の定式化を行い、その実例として空間1次元の藤田型方程式の解に対し、爆発時刻を高精度で包み込むことに成功した。この手法は、爆発時刻の特定のみならず、初期値からは解の爆発が判定できない問題が、実際に爆発することを証明できるものであり、世界に先がけた結果である。 (3)熱方程式の初期値境界値問題に対する半離散解のa priori誤差評価定数について考察し、その具体的値が楕円型方程式に対する離散化誤差と密接に関係することを解明した。特に、その最良評価を与えることに成功した。(4)非線形楕円型問題に対する有限次元射影とその構成的誤差評価を用いた手法により、近似解のある近傍には、解が存在しないことを証明する手法を提案し、その有効性を示した。(5)線形楕円型作用素の逆作用素に関して、その近似逆作用素ノルムが真の逆作用素ノルムへ収束する条件を明らかにし、収束オーダーについても知見を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱方程式の初期値境界値問題に対する有限要素半離散解のa priori誤差評価定数が、対応する楕円型方程式の離散化誤差の priori定数と全く同じもので与えられることを立証できた。これは、ほとんど半世紀におよぶ関連研究でも明らかでなかった事実であり、このこと自体が画期的な成果であるのみならず、これを用いた全離散解の構成的誤差評価の効率をも格段に向上させるものである。また、非線形発展方程式が有限時刻において爆発する解をもつことに関しては、理論的および数値解析的にも多くの研究が知られているが、結果が知られているが、本研究によって得られた結果は、解が爆発する事実とその爆発時刻を数学的に厳密に立証するものであり、これまでにない意義をもつ研究成果である。 さらに、比較的小さいレイノルズ数の場合ではあるが、3次元非凸領域における定常Navier-Stokes方程式の解の検証に成功したことは、世界に先がけた研究であり、今後の計算の効率化によって、高レイノルズ領域の問題に対しても十分な適用可能性を期待できるものである。 これらの研究成果は、本研究課題が当初の計画通り順調に進展していることを示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様に、関係研究者との緊密な研究連絡のもとに、次の課題に対して恒常的に検討を進める。(1)非線形発展方程式の爆発解に対する数値的検証方式の高度化を図る。特に藤田型方程式に対しては、負の部分を有する解の爆発問題など、理論的な爆発条件の判定が困難な問題について、精度保証付き数値計算にもとづく数学的に厳密な計算機援用証明を目ざしその有効性を実証する。(2)非線形発展方程式の解の効率的数値的検証の実現に向けて、有限要素法による熱方程式の全離散解に対する誤差評価定数の改良とその最適化をめざす。(3)周期解を持つ熱方程式に対して、空間有限要素法、時間スペクトル法にもとづく全離散近似解に対し新たな構成的誤差評価法を与え、その結果を非線形問題の検証に適用する。(4)高Reynolds領域にも適用可能な、3次元Navier-Stokes 方程式の解に対する数値的検証実現のために、理論的計算法の改良とともに、並列スーパーコンピュータの利用などによる計算高度化を図る。(5)楕円型方程式を対象とした無限次元Newton法の効率的実現に向けて、特に線形化逆作用素評価の理論的・実際的効率化を図る。(6)無限次元問題に対する全解探索の手法を定式化し、解の非存在に対する数値的アプローチの実用レベルへの展開を目ざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって、国際シンポジウムをはじめ多くの研究集会等がオンライン開催となり、今年度の旅費使用予定額が大幅に減少したこと、また、当初購入予定であったノートPCについて、現有のもので十分対応可なため購入を見合わせたことによる。2022年度は、COVID-19の状況にもよるが、これらの残額も含めて適切な有効活用を図る予定である。
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